安倍前首相の突然の辞任に続いて、民主党の小沢代表が辞意を表明した。「民主党はまだ力不足。次の選挙で勝つのは難しい」と大批判したが、小沢氏はわずか2日で翻意した。
 与野党激突と言われる中、党首会談の場では自民・民主の「大連立」というウルトラCが協議されていた。
 厳しい権力闘争を繰り広げる政治家たちの言動から、リーダーたる人間の資質について考えた。(今回はVol.6)
本宮: 本当の意味でのリーダーというのは、本気で10人を動かせる人間だと思うんです。それ以上の人間になると「組織」ができてしまう。総理大臣も国会の決定がないと、何もできないじゃないですか。だから、本当は総理大臣はリーダーと呼べないかもしれないと思うときがある。
 俺、政治家になるんだったら、独裁者以外になりたくない。

全員: あははは(爆笑)。

本宮: 政治というのは、本当は独裁体制でしかあり得ないと思いますよ。

木村: 田中さんも小泉さんも独裁的だったということですか。

本宮: リーダーのにおいが極めて強く漂ってくるということで言えば、独裁的な面がすごく強かったんじゃないですか。

木村: そうなると、安倍さんはそれが足りなかったということですか。独裁的なムードはなかったですよね。

伊藤: 「誠実」「いい人」という言葉に表れているように、安倍さんの人柄が前面に出ていたと思います。独裁的ではないけれども、自分のキャラクターを生かしたリーダー像を作り上げようとしたんだと思います。ただし、先ほどのヨットレースの話から考えれば、安倍首相は目先のことに捉われるのではなく、自分の理念を前面に押し出して、それを実現するための長距離砲を打とうとした。理念型の政治家を目指したという点からも、やはりリーダーだったと言えるんじゃないですかね。

木村: 「憲法改正」や「教育」という、ものすごい長距離砲の弾を用意しましたね。

伊藤: しかし、いまの政治は足元を大切にしていないと、そこで足をすくわれてしまうんです。民主党の前原誠司氏が約1年半前に「メール事件」が原因で代表を辞任しました。その失敗と同じようなことが、安倍首相の周囲で起きてしまった。手柄争いや勇み足、問題解決力のなさ、百戦錬磨の参謀を欠き、経験不足から、どんどん悪い方向に進んでしまった。それが非常に残念でした。

本宮: 皆さんにとってリーダーらしい政治家とは誰ですか。

二宮: 僕はもし「好きな政治家を挙げろ」と言われたら、本宮さんが挙げた田中角栄と小泉純一郎の2人です。
「国土の均衡ある発展」を最大の政策目標にして、日本的社会主義体制を築いたのは田中角栄氏だと思います。そして、それをぶち壊したのが小泉純一郎氏ですよ。郵便局のネットワークを使った集票の仕組みも道路建設で地方にお金を落とす仕組みも、田中角栄が作ったものじゃないですか。小泉首相の「郵政民営化」や「道路公団民営化」とは、これらをぶち壊すことだった。しかし、確実に言えることは、この2人のエネルギーのすごさ。

「加藤の乱」が起きたとき、加藤紘一氏が死ぬ気で勝負をかけていたら、総理・総裁になっていたと、私は今でも思っています。でも勝負をかけきれませんでした。砂漠の中で先が読めない“インテリ”に映った。
 勝負どころで一歩を踏み出せるかどうか、踏み出してからの加速力がリーダーには必要なんです。恐らく加藤さんは頭がいいから、戦いながら票読みをして「これじゃあ、何票差で負けるんじゃないか」と不安になり、最後の一歩が踏み出せなかったんじゃないかな。その結果、派閥は分裂してしまい、負ける人間というのは、目先の足し算、引き算ばかりをやっている。

(続く)

<この原稿は「Financial Japan」2008年1月号に掲載されたものを元に構成しています>
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