知将・野村克也氏の楽天イーグルス監督就任が内定した。私は野村氏のことを野球学者と呼んでいる。これほど野球の細部にまで考察のメスを入れ、真理に迫ろうとしている指導者を私は他に知らない。
 その野村氏の野球を一言で表現すれば、弱者は敗者に非ず、強者は勝者に非ず――。データを重視する緻密な野球で20年間の監督生活で5度のリーグ優勝を果たしている。今季、勝率わずか2割8分1厘に終わったチームをどう立て直すのか。早くもその手腕に注目が集まっている。

 数多くの著書を持つ野村氏だが、本書はその決定版といっていいだろう。
 野球学者である著者がとりわけ情熱を傾けるのが配球論である。普通の監督はストライクゾーンを3(タテ)×3(ヨコ)で9分割するが、野村氏はボールゾーンまで含めて9×9=81分割するのである。つまりピッチャーが投じたボールは全てのスポットのどこかに区分できるということである。どこでファウルを稼ぎ、どこで内野ゴロを打たせ、どこで三振を奪うか。そのメソッドが巻末で詳しく紹介されている。野球ファン必読の書だ。 
「野村ノート」(野村 克也 著・小学館・1500円)


2冊目は「会津戦争全史」(星 亮一 著・講談社選書・1600円)。冒頭に薩摩の兵も会津の兵も敵兵の肝を食った、とある。白虎隊で有名な会津藩の悲劇はなぜ起きたのか。ただただ戦争の実情を知るに及び言葉を失う。


3冊目は「ブエノス・ディアス、ニッポン 〜外国人が生きる「もうひとつの日本」〜」(ななころびやおき 著・ラティーナ・1905円)。日本には200万人をこえる外国人が住んでいる。彼らはどんな生活をし、どんな目で日本を見つめているのか。不法滞在などの問題に奮闘する弁護士が実態を描く。


<この原稿は2005年10月27日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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