日本代表が初めて出場したサッカーW杯は98年のフランス大会。この大会、日本代表が記録したシュートの成功率1.82%、オンターゲット率(ゴールの枠をとらえた確率)20%は、いずれも出場国(地域)中最低の数値だった。
 中盤ではパスが回るがシュートを打たない。打っても入らない。現地でやきもきしながら日本代表の戦いぶりを見ていた私には、中盤でグルグル回るパスがあるものに見えた。それは「ダメになる会社の稟議書」である。フランスのピッチには「失われた10年の縮図」がそのまま投影されていた。これは今に到るも改善していない。
 本書はタイトルからして刺激的である。著者はドイツでプレーした自らの体験も織り交ぜながらその答えを導き出そうとする。「不自然なほどに失敗を恐れる日本人」のメンタリティは、いったい何に起因するのか。
 チームメイトが著者にブツけた次の言葉が重い。「自由がなければサッカーなんて無に等しいよな。その自由を得るために義務としてリスクにチャレンジしていかなければいけないんだぜ」。ストンと腑に落ちた。
「日本人はなぜシュートを打たないのか?」(湯浅健二著・アスキー新書・724円)

 2冊目は「ボナンザVS勝負脳――最強将棋ソフトは人間を超えるか」(保木邦仁、渡辺明 著・角川ONEテーマ21・686円)。過日、羽生善治三冠との対談で、人とコンピュータの差は感覚的にベターを選べる点だという話が出た。最強将棋ソフトは人に勝てるか。開発者と若き竜王が語る。

 3冊目は「メキシコの青い空 実況席のサッカー20年」(山本 浩 著・新潮社・1600円)。 ドーハの悲劇、ジョホールバルの歓喜…。日本サッカーの天国と地獄を伝えたNHKアナウンサーが、名勝負を振り返る。記憶に残る実況とともに歴史的瞬間が鮮やかに蘇る。

<この原稿は2007年9月12日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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