大相撲の名解説者といえば、昔は神風(元関脇)だが、今は舞の海(元小結)だろう。とにかく聞き応えがある。テレビもいいがラジオはもっといい。

 過日、タクシーの中で九州場所の中継を聞いていると、舞の海の声が耳に飛び込んできた。運転手さんに頼んでボリュームをアップしてもらった。その直後、彼はこんな話をした。

「大相撲の基本といえば前に出ることと言われていますが、私はそれを疑っているんです。相撲の土俵は丸い。前に出なくても回り込めば勝てる。これからの力士は前に出ることより、土俵を割らない体のバランスを考えた方がいいかもしれません」

 これにはうなった。前に出てさえいれば「いい相撲です」と壊れたテープレコーダーのように繰り返す解説者が多い中、彼の解説は異彩を放っている。

 さて舞の海といえば思い出すのが1991年九州場所、のちの横綱・曙戦だ。身長差33センチ、体重差103キロ。まともに行っても勝ち目はない。いかにして小よく大を制すか。

 考え抜いた末に舞の海は立ち合いでフェイントをかける。背伸びをして曙の視線を浮かせ、次の瞬間、スッと懐に潜り込んだのだ。左足で内掛けをかけ、曙の巨体にへばりつく。続いて相手の左足をすくい、頭で腹を押した。決まり手は「内掛け」だったが、あれこそは秘技「三所(みところ)攻め」だった。

 幕内で7年間にわたって土俵を沸かし続けた舞の海だが、最も思い出に残る相撲として、この一番をあげている。


※二宮清純が出演するニッポン放送「アコムスポーツスピリッツ」(日曜17:30〜18:30)好評放送中!
>>番組HPはこちら



◎バックナンバーはこちらから