近年の社会人ラグビーの名勝負といえば、1991年1月8日、第43回全国社会人大会決勝、神戸製鋼対三洋電機戦にとどめを刺す。

 後半、ロスタイム。4点のリードを奪われていた神戸製鋼はナンバー8の大西一平がサイドアタックを仕掛ける。ラックが形成され、そこから出たボールをSH萩本光威が拾い上げ、右にいたSO藪木宏之に素早いパスを送った。

 藪木は中央突破を試みようとして三洋電機のCTB日向野武久につかまった。つかまりながらのパスは右にいたCTB藤崎泰士を越えてハーフバウンドとなり、隣のCTB平尾誠二の手にすっぽりとおさまった。

「あの時と同じじゃないか」
 声にならない声を発したのは三洋のFL飯島均だ。飯島には既視感があった。
 2年前の社会人大会準々決勝、飯島の前で平尾のチョン蹴りしたボールが妙なはね方をした。そのボールは平尾の手にすっぽりとおさまり、そのまま平尾はインゴールに飛び込んだ。

 飯島は平尾を執拗にマークしていた。狙いをすませてタックルにいった。と、その時だ。平尾はタックルを受ける直前、これ以上ないというタイミングでタッチライン沿いに走り込んできたWTBイアン・ウィリアムスにパスを送ったのだ。

 ボールを受け取ったウィリアムスはバックスタンド前を風のように疾走した。ハーフウェイラインの手前からだから、距離にして約50メートルの独走。同点トライ、そして細川隆弘のコンバージョンで逆転。神戸製鋼3連覇達成。試合後、肩を落とした飯島はつぶやいた。
「オレの読みは間違っていなかった。でも、まさか同じ光景を2度も見ることになるなんて……」


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