前回、麻生太郎首相の一国のトップらしからぬ“言葉の軽さ”について書きました。あれから1カ月、その思いはますます強くなっています。25日、麻生首相は2次補正予算案を今の臨時国会ではなく、来年の通常国会に提出することを表明しました。
「衆院解散・総選挙よりも景気対策」
 麻生首相は先月、はっきりとそう明言しました。にもかかわらず、景気対策を目的とした予算を先送りにする。これは国民との約束違反に他なりません。10月に成立した第1次補正予算は、もともと福田康夫前政権時代に道筋をつけていたもの。麻生首相の実績とは言えません。厳しい言い方をすれば、麻生首相は就任から数カ月間、ほとんど重要な政策を実現しないまま総理のイスに座っていることになります。

 今回の2次補正案には、皆さんもご存知のように、全世帯への定額給付金支給が盛り込まれています。多くの方が批判の声を上げているように、この“バラマキ”は何のために行うのかが、さっぱり見えてきません。給付という表現を使っていますが、もともとは皆さんが払った税金です。この言葉ひとつとっても、どこか「“下々のみなさん”にお金を与えてやろう」との“上から目線”を感じてしまいます。

 景気が減速する中、国がみなさんの生活をサポートすることは最優先事項です。確かに1人あたり12000円(18歳以下と65歳以上は20000円)のお金が手元に戻ってくれば、少しは暮らしが楽になる方もいらっしゃるでしょう。「もらえるならもらいたい」。誰もがそう思うはずです。

 しかし、99年に国が配った地域振興券は、ほとんど効果がありませんでした。実際に消費が増えたのは配った額の32パーセント。今回も戻ってきた12000円が貯蓄に回れば、冷え込んだ消費を刺激することにはなりません。景気対策としては不十分な施策といえるでしょう。

 生活支援の観点からも疑問が生じます。まず給付は住民基本台帳に基づいて実施されるため、テント生活などで居住地が定かでない方、本人確認のとれない方がお金を受け取れない可能性が出てきます。また、受け取り手続きのひとつとして窓口に出向いて申請する方法が示されていますが、介護が必要な高齢者が役所まで足を運ぶのは一苦労でしょう。かといって振込にするのも、振り込め詐欺の心配があります。せっかくのお金が犯罪を誘発することになれば、まったく意味がありません。
 
 今回の給付金はいわば、ごちそうのタイをそのままプレゼントするようなものではないでしょうか。タイは食べて胃袋を満たせば、それで終わりです。またお腹をいっぱいにするには、タイのプレゼントを待ち続けるしかありません。

 しかし、タイの釣り道具を与え、釣り方を教えれば、誰もが自分の食べる分を自分で確保することができます。さらにはタイの釣りやすい環境を整備してあげることで、より多くの人がお腹をいっぱいにし続けることができます。

 つまり、真の景気対策、生活支援につながるのは、単に一時的なお金を配るのではなく、皆さんが安定して暮らせる制度設計をすることです。たとえば失業者への就業支援や不安定雇用を見直すことに集中して予算をつぎ込む。そして誰もが安心して働けるよう、医療や年金の体制を磐石なものにする。少し考えただけでも、やるべきことはたくさんあります。また、消費税率を一時的に下げることも一案でしょう。今度の給付金は総額約2億円。これは1年間の消費税1%分の税収に相当します。ならば1年間、消費税を安くする。このほうがよっぽど消費の拡大につながるような気がします。

 結局、2次補正案を政府がすぐ提出できないのは、自らの政策に自信がない証拠でしょう。胸を張ってアピールできるものなら、すぐにでも予算を組むはず。早期解散をしない理由として首相や与党サイドは「政治空白はつくれない」との言葉を繰り返していますが、何もしないままに時間だけが過ぎていく今こそが“政治空白”ではないでしょうか。 

 この臨時国会では1次補正予算の審議が優先され、解散が想定されていたこともあって、各委員会がほとんど開かれていません。僕が所属している文教科学委員会は約2カ月でわずか2回のみ。2次補正案が先送りになったため、今後も与野党で膠着状態が続くことが予想されます。専門のスポーツ政策を含め、政府にぶつけたい質問はたくさんあるのですが……。

「きちんと審議して問題点を明らかにすべきだ」。若手議員を中心にそんな声は出てきています。刻一刻と社会の状況が変化する中、政治の停滞は許されません。このもどかしい現状を吹き飛ばすような風を、みなさんの力をお借りして巻き起こしていきたいと思っています。


友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
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