前半が終わった時点で、神戸製鋼の敗退を予想する者は、少なくともサントリーの関係者を除いてはひとりもいなかっただろう。11対3。神戸製鋼にとっては思い通りの展開だった。

 1996年1月28日、全国社会人ラグビー決勝トーナメント1回戦。東京・秩父宮ラグビー場。神戸製鋼は史上初の8連覇(8年連続日本一)を狙っていた。

 後半2分、ゲームが動いた。右中間でのラックから左へ展開し、サントリーのTB今泉清が飛び込んだ。コンバージョンも決まり、得点差はわずかに1点。

 ここからシーソーゲームが始まる。17分、TB尾関弘樹のトライ、SH永友洋司のゴールで一度は逆転に成功したものの、神戸製鋼もTB冨岡剛のペナルティゴールなどで着実に加点。40分を回ったところで、サントリーは3点(17対20)のビハインドを背負っていた。

 ラストワンプレー、ノーサイド直前、サントリーのFWグレン・エニスが突進すると、神戸製鋼は痛恨の反則。キッカー永友の右足から放たれた楕円球は、秩父宮の寒風を切り裂くようにクロスバーの上を越えていった。

 20対20の同点ながらトライ数で上回ったサントリーに軍配が上がった。それは神戸製鋼にとって8連覇への夢が潰えた瞬間でもあった。

 サントリーのヘッドコーチ・土田雅人はこのゲームに臨むにあたって20枚ものレポートを書いていた。「平尾(誠二)なら、こう攻めてくるだろうということを推測してね……」
 神戸製鋼を倒したサントリーは、その余勢を駆って、日本一にまで上り詰めた。


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