昨年11月、サッカー日本代表監督イビチャ・オシムが急性脳梗塞で倒れ、意識不明の状態に陥った時には、復帰について悲観的にならざるをえなかった。ところがオシムは「奇跡の回復」をとげ、この1月にはスタジアムに足を運べるまでになった。日本協会はオシムに新ポストの就任を要請した。
 オシムが最も信頼する日本人が著者である。ジェフのGM時代、著者はオシム招聘に中心的人物として尽力し、チームのレベルアップに貢献した。
<自分が思い込まないと、人は動かない>。それがジェフの3年間で得た著者のGM哲学だ。
 サブタイトルに「日本サッカー界の異端児初の自伝的リーダー論」とあるように、著者はサッカー界では一風変わった人物として知られる。体制の中に取り込まれることを良しとせず、常に理想を求めて行動しているような印象がある。信念の人だ。
驚かされるのは欧州全土に根を張る著者の「人脈力」だ。それについて<僕自身は人への好奇心だと思っています>と述べる。私の目に著者の存在はサッカー界きってのベンチャリストとして映る。次は何を仕掛けるのか。「祖母力」(祖母井秀隆著・光文社・1500円)

 2冊目は「あぁ、阪神タイガース」(野村克也著・角川oneテーマ21・686円)。名将はなぜ“ダメ虎”を再生できなかったのか。敗軍の将が自らの失敗を分析する。「阪神に伝統はない。ただ古いだけ」。そこに気付きながら打破できなった理由は何か。

 3冊目は「東京マラソン」(遠藤雅彦著・ベースボール・マガジン社新書・760円)。日本に新たなランニング文化を創造した東京マラソン。あまり語られることがない大会運営の舞台裏は興味深い。東京マラソンを走ってみたくなる一冊。

<この原稿は2008年3月5日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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