現役時代、「小さな大打者」の異名をとり、監督としても2001年にヤクルトを日本一に導いた若松勉が野球殿堂入りを果たした。
 通算打率3割1分9厘――。これは4000打数以上のバッターの中では日本人最高打率である。

 若松といえば忘れられないのが1977年6月12日、13日に記録した2試合連続代打サヨナラホームランだ。私がカープファンだったこともあるが、苦い記憶として脳裡に焼きついている。

 場所は神宮球場。6月12日、対広島戦。ゲームは2対2のまま延長戦に入り、10回裏、先頭打者は代打の若松。池谷公二郎のスライダーをライトスタンドに叩き込んだ。劇的な代打サヨナラアーチ。

 13日、またも同点の場面で「代打・若松」の場内アナウンス。9回裏、得点は6対6。松原(福士)明夫のスライダーをライトスタンドに運んだ。まるで前夜のビデオテープを見ているようだった。

 この頃、若松は右の脇腹を肉離れしていた。スタメンは無理だが、代打での一振りなら何とかなる。用意周到に球種を絞り込み、スライダーがくるのを待っていた。研ぎ澄まされた集中力が連日のサヨナラショーを演出したのである。

 一度しかバットを振れないからこそ何でもかんでも飛びつくのではなく、深海魚のように息を潜めて獲物を待つ。挙句、一振りで獲物を仕留めてダイヤモンドを一周する。「小さな大打者」の後ろ姿が途轍もなく大きく見えた。

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