WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、やりました! サムライジャパンの戦いぶりは議員の間でも大きな話題になっていました。試合中は、どことなく国会もソワソワした雰囲気でしたね。みなさんの職場や学校も同じような状況だったことでしょう。
 実は日本−韓国の決勝戦当日、参議院文教科学委員会で質問の機会が巡ってきました。しかも、試合とほぼ同時刻の“プレーボール”。出席した大臣や委員のみなさんを心ここにあらずの状態にさせないよう、スポーツ政策について、インコースに厳しくボールを投げてみました。

 日本のスポーツ関連予算が少ない点はこのコラムで何度も取り上げてきた通りです。イメージしやすくするために、国の予算(約88兆円)を一般家庭の1カ月の収入(88万円)として、とらえてみましょう。みなさんは、実際に体を動かしたり、スポーツ観戦にどのくらいお金を使っているでしょうか。なんと日本一家がスポーツにかけているお金は、たった200円程度です。これではスポーツドリンクを1本買えば、終わってしまいます。ちなみにWBCの東京ラウンドのチケットは2,000円〜16,000円。日本一家はスポーツ観戦を1試合も楽しめないのです。この国がいかにスポーツに対して力を入れていないかがお分かりいただけるでしょう。

 しかも、200円のうち生涯スポーツを支援するためのお金はわずか15円。これでは、駄菓子がやっとひとつ買えるくらいです。誰もがスポーツを楽しめる環境をつくらないことには、いい選手は生まれません。いい選手が出てこなければ、トップのレベルも低下します。WBCの連続優勝も、サッカーW杯での上位進出も、五輪での代表選手の活躍も、この普及部門の充実なくしてはありえません。そう考えると、WBCで世界一に輝いた今だからこそ、日本のスポーツを足元から見つめる必要があるでしょう。

 ところが、その肝となる総合型地域スポーツクラブの育成、支援に関する予算は平成20年度の7億3000万円から大幅にカットされてしまいました。新年度の予算額は半分以下の3億4000万円。削減の理由を問い質すと、クラブの育成、支援はtotoの助成事業として一本化するためとの回答がありました。文部科学省は平成22年までに市町村に最低1つの総合型地域スポーツクラブを立ち上げることを目指しています。平成20年4月現在での到達度は58%。あと2年で目標をクリアするとすれば、予算を減らせる状況ではありません。

 そもそも総合型スポーツクラブが市町村に1つあればいいという発想も不思議です。人口の多い街にクラブが1つあったところで、どれだけの人が身近にスポーツを楽しめるでしょうか。スポーツクラブは、もっと地域に暮らす人々の実態に即した小さなコミュニティで展開されるべきです。自治体単位でスポーツクラブをとらえているところに、日本の区割り行政の弊害がみてとれます。

 僕は日本で総合型スポーツクラブを発展させていくにあたり、すばらしい拠点があると感じています。それは学校です。学校なら全国どこでも、各地域に必ずひとつはあります。人口や地域特性にあわせて作られているため、住民にとっては身近でアクセスしやすい場所です。

 日本には公共のスポーツ施設が少ないとよく言われます。総合型クラブの先進国であるドイツでは、人口10万人に対して公共スポーツ施設は154もあります。対する日本は50しかありません。ただ、ここに学校の体育館などを含めると、施設数は人口10万人で167。ドイツを上回る環境が整っていると考えることもできるのです。

 今、少子化の影響で学校は統廃合が進んでいます。廃校となった学校施設が野放しになっているケースも少なくありません。空き教室や体育館、グラウンドを有効活用すれば、さまざまなスポーツや、囲碁や将棋、音楽といった文化活動も楽しめます。

 学校を総合型スポーツクラブの拠点とみれば、校庭の芝生化も大きな意義が出てきます。単に学校の児童、生徒だけでなく、地域住民がスポーツを楽しむ場として芝生のグラウンドを使えるからです。さらに芝生の校庭は住民の憩いの場、すなわち公園としての機能も兼ね備えることになります。

 現在、国土交通省では都市公園の面積を1人あたり20平方メートルに拡大する方針を打ち出しています。現状は半分に満たない約9.4平方メートル。もし校庭が公園の役割も果たすことになれば、実質目標はクリアします。わざわざ都市公園を整備しなくていいわけですから、ムダな開発やコストを減らせます。こう考えると校庭の芝生化には一石三鳥の効果があるのです。

 今のところ、全国に約3万6000ある公立校のうち、芝生化されている学校は約1500。全体のわずか4%です。僕の地元である愛媛県には残念ながら1校もなし。国は芝生化にあたって、費用の3分の1を補助する制度を設けていますが、それでも利用した学校は366校しかありません。

 来年度から校庭の芝生化はtotoの助成事業の対象となります。天然芝なら80%、人工芝なら75%の費用を援助することになっています。8割もお金を出してくれるのであれば、3分の1しか補助が出ない国の制度は誰も利用しないでしょう。事実上、校庭の芝生化はtotoに丸投げです。

 最高6億円があたるBIGが好調でtotoは今年度、過去最高の800億円超の売り上げを記録しました。これなら総合型地域スポーツクラブの支援も、校庭の芝生化にも充分な資金が確保できるでしょう。ただし、今後も事業を持続するにあたっては、少なくとも今の売り上げをキープできることが条件になります。以前からtotoは公共グラウンドの芝生化を助成してきました。ところが平成16年からは売上不振に伴い、申請の受付を停止する事態に追い込まれています。totoを救ったのは、良くも悪くもBIGに他なりません。もしBIGを上回るくじが他で発売されればどうなるか。totoに頼りすぎるスポーツ施策は、それこそ運まかせ。スポーツに対する国の姿勢が問われています。

 今回のWBCで、優勝の瞬間を見た若者が「日本に生まれて良かった」と語っていました。この発言を聞いて、僕はとてもうれしく感じました。「この国に、この地域に生まれて良かった」。その思いなくして国を良くしよう、地域を良くしようとの心は育まれません。誇りも生まれません。それは愛国心や愛郷心について100回教えればよいものではないでしょう。WBCやW杯、五輪、甲子園で頑張る選手たちの姿を観るほうが、はるかに自分のアイデンティティを意識するはずです。

 国会で議論をしていると、スポーツに対する関心の低さを痛感します。スポーツの力を甘くみてはいけません。この不況下、心を元気にし、体を元気にし、そして日本を元気にするのはスポーツです。スポーツがもたらすプラスの効果について、もっともっと政治の世界で理解を深めなくてはいけません。世界一に輝いたサムライジャパンの投手たち同様、地道に、そして着実に国会というマウンドからボールを投げ続けたいと思っています。

友近聡朗(ともちか・としろう):参議院議員
 1975年4月24日、愛媛県出身。南宇和高時代は全国高校サッカー選手権大会で2年時にベスト8入りを果たす。早稲田大学を卒業後、単身ドイツへ。SVGゲッティンゲンなどでプレーし、地域に密着したサッカークラブに感動する。帰国後は愛媛FCの中心選手として活躍し、06年にはJ2昇格を達成した。この年限りで現役を引退。愛称はズーパー(独語でsuperの意)。07年夏の参院選愛媛選挙区に出馬し、初当選を果たした。
>>友近としろう公式HP
◎バックナンバーはこちらから