古来、日本人は田植えの時にはイワシやニシンなど必ず海の魚を食べたという。その習慣はなにも海に近い地方だけではなく、内陸部の村でも同様だった。それは田植えが単なる農作業ではなく、お祭りだったからである。
 田植えばかりではない。わが国の年中行事には海産物があふれている。正月のおせち料理を思い出して欲しい。コンブ、タツクリ(カタクチイワシ)、エビ、カズノコ…。そして慶事にはタイの尾頭付。
 著者は民俗学者だが、このような日本人の特徴を「海洋性」と呼ぶ。まずはこの捉え方が面白い。いわば、日本人の中に眠る「海」を呼び覚ますために、本書を書いたのだ。
 とはいえ、もちろん話題の中心は漁業である。そこでは民俗学の知識が散りばめられており、読むほどに、確かに自分の中に「海」を感じるような気分になる。柳田國男を引き合いに出すのは当然として、桜田勝徳というあまり知られていない先学の紹介も知的好奇心をくすぐる。
 最後に著者は「海洋性」の本質は「ゆるやかさ」だとしている。平成の世、我々はストレスを抱えながら汲々として生きている。どこで道を間違えたのか。「漁民の世界」 (野地 恒有 著・講談社・1500円)

 2冊目は「水野成祐のアメリカンスタイルボウリング」(水野 成祐 著・ベースボールマガジン社・1500円)。ボーリング人気は根強い。著者はアメリカンスタイルの第一人者。より強いボール、より曲がるボールを投げるにはどうすべきか。メタボ予防に効果?

 3冊目は「逆接の民主主義」(大澤 真幸 著・角川oneテーマ・724円)。グローバル化の時代、直面する難題を打破し、未来を構築するために我々はどんな思想を持つべきか。歴史問題の解決策や北朝鮮の民主化策にも言及する。

<この原稿は2008年5月28日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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