「3度目の正直」とはWBC世界フライ級チャンピオン内藤大助のためにあるような言葉だ。

 2002年4月19日、タイ・コンケン。内藤は初めて世界王座に挑戦した。相手はタイのポンサクレック・ウォンジョンカム。それまでWBC世界フライ級王座を3度防衛していた。

 苦戦が予想されたが、それどころの試合ではなかった。34秒KO負け。本人いわく「気がついたら自分の控え室にいた」。

 目の前のトレーナーに内藤は訊いた。「オレ、今日試合だよね?」「……」。トレーナーは何も返事を返さない。「だから、試合じゃないの?」。なおも食い下がる内藤。

「大ちゃん、終わったんだよ」「何が?」「だから試合がだよ」。内藤は自分がKO負けしたことすら覚えていなかったのだ。

 ポンサクレックへの2度目の挑戦が05年10月10日。今度は判定までもつれ込んだが、やはりタイ人王者の壁は厚かった。「世界は近づいたのか?」という記者の質問に内藤はこう答えた。「いや、やっぱり無理だと思います」

 敗因はスタミナ不足だった。後半に入るとガクンと体力が落ちるのが自分でもわかった。どうすればスタミナ不足は克服できるのか……。奈落の底で内藤は悩む。それは「勝利への計画」のスタートでもあった。

※このコーナーでは各スポーツの栄光の裏にどんな綿密な計画、作戦があったのかを二宮清純が迫ります。全編書き下ろしで毎週金曜日にお届けします。



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