二宮: 西野さんは、勝っていても、ハーフタイムに発するメッセージは「もっと攻めろ」とか「もっと点を取ってこい」という攻撃的なメッセージが多い。「あとは守れ」という指示はあまり出さないですね。
西野: 出しませんね。宮本(恒靖)あたりがいたときは、2対0とかでリードしていると、「このままゲームをコントロールしますから、ディフェンスを強化してくれませんか」と言っていたけれど。

二宮: 宮本はスイーパー(ディフェンダーとキーパーの間にいて守備を強化する役目のポジション)タイプだから、当然、そう言うでしょうね。
西野: でも、僕は「3点目を取りにいけ」と言いますね。

二宮: そこが西野イズムだと思うのですが、そのほうが選手たちの気持ちが前向きになると。
西野: 僕は「うちはディフェンスを一枚増やしても守れないチームだからだ」と言うんですよ。人数をかけたら守れるチームであれば守るけれど、守れないチームだから、フレッシュなオフェンスの選手を入れたほうが相手にプレスをかけることができてディフェンスにもプラスになると。2対0で勝っているときに、ハーフタイムに「後半はディフェンシブにしろ」と言いながら2対1になった状況と、「オフェンシブにいけ。3点目を取りにいけ」と言って2対1になった状況では全然違う。3点目を取りにいってカウンターで1点取られて2対1になったとしても、攻撃しようとする意識は継続するんです。そうすると、必ず3対1になっていくんですよ。

二宮: なるほど、わかります。まさに「攻撃は最大の防御なり」ですね。
 僕はお世辞ではなく、西野流攻撃サッカーの支持者なんですけども、閉塞状況にあるいまの世の中において、そういう「2点取ったら、3点目を取りにいけ」というメッセージが日本を元気にするんじゃないかなと思っている。余談ですが、人類の歴史は常にピンチをチャンスに変えてきた。一例を挙げれば、大恐慌のあとに米国は国を明るくしようと、ハリウッド映画など娯楽産業に投資し、大衆文化を開花させた。第一次石油ショックのあとに脱工業化社会ということでIT産業の萌芽があった。不況の時こそ攻めなければならない。
西野: だからうちは「攻撃サッカー」をスローガンに掲げていますが、超攻撃的なスタイルに、というのを毎年標榜しているんです。

二宮: ただ「攻撃的」じゃなくて「超攻撃的」というのがいいですね。「最後まで攻め抜け」と。
西野: それぐらいの意識が選手全員にないと、自分たちのスタイルは確立できませんよ。

二宮: 昨年のFIFAクラブワールドカップでガンバが3位になったことでほかのクラブにも「世界一になる」という目標が出てきた。現実的には困難な壁でしょうけど、大きな励みにはなる。
西野: でも、日本のクラブはベスト4から上は無理ですね、現時点では。

二宮: 冷静に見れば、確かにそうでしょう。
西野: やってみてそう思います。うちはクラブワールドカップ7チームの中で3位になったというだけで、世界3位のチームではないです。
 マンチェスター・ユナイテッドとの試合は玉砕覚悟で自分たちのスタイルがどこまで通用するかというチャレンジでしたが、相手のプレーに見とれちゃうほど全然試合にならなかった。
 うちがプレミアリーグに入れるかといったら、とてもとても。せいぜいディビジョン3かディビジョン4ぐらいでしょうね。

二宮: もし西野さんが日本代表監督になっても「超攻撃的サッカー」という旗は降ろしませんか。
西野: そのスタイルはたぶんさらに強くなると思いますね。だって、自分で選手をピックアップできますから。選手ありきのチームづくりではなくて、自分の理想に近い選手をもってこれるわけですから。まあ、僕が監督でもメンバー的にはいまの代表チームがいちばんいいんじゃないかなと思いますけれど。

二宮: そうでしょうね。(中村)俊輔は必要だし、遠藤(保仁)も要る。ところで遠藤の成長はどうですか。
西野: あんまりいいとは思ってなかったんですけども、クラブでは。体脂肪率が13パーセントもあるんですよ。

二宮: なんかボワッとしている感じですよね(笑)。そこが彼らしくていい。
西野: 「10パーセント切らないと使わないぞ」と言っているんですけどね(笑)。でも躍動感はないけれど運動量はいちばん多いし、技術的にもうまくなりましたよ。蹴ったり止めたり。

二宮: 緩い“コロコロPK”が有名ですが、独特の感覚があるんでしょうね。「和して同ぜず」というスタイルがいい。
西野: あいつのすごいところは動じないところですよ、どんな状況でも。

二宮: ふてぶてしいというか、落ち着きはらっている。
西野: 何を考えているのかわからないところがあるけれど、4手、5手ぐらい先まで読んでいますからね、あいつとか二川(孝広)は。

二宮: その戦術眼がガンバの核になっているわけですね。
 最後に、西野さんの考えるリーダーの条件は何ですか。さっき「ぶれない」とおっしゃいましたが。
西野: ぶれないというのは自分のスタイルをつくっていく上で大事なことだと思うんです。選手たちは監督を見ていますから。だから与えられた戦力がどういう戦力でも、どんな環境でも、自分のスタイルはぶれないで持っていたいなと思いますね。

<この原稿は2009年6月号『潮』に掲載されたものを抜粋したものです>

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