「僕ら(チーム関係者)は警備してもらえるけど、危ないのは(メディアの)皆さんの方じゃないの?」
 懸念されているサッカーW杯開催国・南アフリカ共和国の治安について感想を求められたサッカー日本代表・岡田武史監督のコメントだ。

 確かに代表チームやFIFA(国際サッカー連盟)幹部は国が威信を賭けて守るだろう。しかしメディアやサポーターは、それこそ自分の身は自分で守るしかない。
 南アフリカの治安の悪さは次のデータからもうかがえる。同国の研究機関「医学研究評議会」(MRC)の調査結果によれば、同国の男性の4人に1人を上回る27.6%が「過去に成人女性または少女をレイプしたことがある」という。しかも過去のレイプを認めた男性のうち実に7.7%が「レイプした相手は11人以上」。開いた口がふさがらない。

 そこで日本の外務省のHPをのぞいてみた。例えば南ア最大の都市ヨハネスブルグ。
<ダウンタウン地区では、殺人、強盗、強姦、恐喝、暴行、ひったくり、車上狙い、麻薬売買等の犯罪が時間、場所を問わず発生しています>。南アには行くな、と言っているようなものだ。
 しかし、南アの治安事情については最近になって急に悪化したわけではない。今さら大騒ぎするのもどうか。

 FIFAは南アW杯を「チャレンジ」と位置付けている。アフリカ大陸初のW杯を、しかも15年前までアパルトヘイト政策下にあった南アで成功させることに意義があると考えている。
 それが証拠に世界の競技団体の中でFIFAほど「アンチ・レイシズム」(反人種差別)を徹底し、差別行為への厳しい罰則規定を設けているところは他にない。
 問題は「チャレンジ」の代償だ。W杯開催期間中、事件が多発すれば「南アでのW杯は失敗だった」とメディアは騒ぐだろう。結果的に「アンチ・レイシズム」の旗まで色褪せないか、それが心配だ。

(この原稿は『週刊ダイヤモンド』09年7月18日号に掲載されました)

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