前期は17勝17敗2分の勝率5割で3位。ただ、優勝した大阪とはわずか2ゲームの差でした。優勝と3位の差は、一言で言えば“ここ一番での強さ”だったと感じています。攻撃では、ここで1本出ればというケースでヒットが出ず、守備では、ここを切り抜ければというところで投手陣が踏ん張りきれませんでした。
 僕は現役時代、パ・リーグ(南海)の人間だったこともあり、よほど試合で目立たない限り、新聞やテレビでは紹介してくれませんでした。特に兄(和正氏)が巨人に在籍していただけに、扱いの違いには愕然としたものです。なんとか頑張って田舎の両親や親戚に、自分の姿を見てもらいたい。その一心でプレーしていました。

 独立リーグの選手も言ってみれば、昔のパ・リーグと少し似たところがあります。いい結果を残さない限り、地元紙ですら取り上げてくれません。観客にも名前と顔を覚えてもらえないでしょう。スカウトに注目してもらうこともかないません。やはり、大事な場面で自分を売り込めるのが真のプロフェッショナルです。チャンスを結果に変えることができなかった点で、まだまだ選手たちの力は足りないと言えます。

 アイランドリーグで半年間、監督を務めた経験を踏まえると、この関西独立リーグには、いい素質の人間が集まっています。個々人で比較すれば、アイランドリーグよりレベルが上の選手は少なくありません。しかし、できたばかりの球団ゆえ、チームの総合力はまだまだ。正直、前期はミスがある程度出てしまうのは覚悟していました。ただ、同じ失敗でも積極的にいくこと、そのミスをみんなでカバーすることが大事です。チームでこの点は徹底したつもりでしたが、それでも考えられないようなエラーが出てしまいました。

 チームを率いる藤田平監督が目指しているのは「勝つ野球」。そのためにはなぜ負けたのかを分析する必要があります。その上でどんな野球をやるか、個人個人が何をアピールすべきかを知ることが重要です。方向性もなく、ただ野球をやっていても実力は向上しません。

 その点で、後期を勝ち抜くにあたってポイントとなるのは走塁でしょう。現在、僕は3塁コーチャーとして選手に走塁の指示を出していますが、必死に腕を回さないと、なかなか前の塁を狙ってくれないのです。まず、打球判断に加え、野手の肩と自分の足の見極めができていません。さらにリードが狭く、一歩目のスタートで出遅れています。課題は山積みなのが現状です。

 何より選手たちには積極的に次の塁に進む姿勢を見せてほしい。そう僕は感じています。暴走と好走塁は紙一重。野球界にこんな言葉があるように、思い切って次の塁を目指せばアウトになることもあるでしょう。でも、実際に走ってアウトになれば、何がいけなかったのか分かるはずです。

 1つでも先の塁を奪うことができれば、次の打者も長打狙いから単打狙い、最悪は犠牲フライ狙いと楽な形で打席に入れます。それは得てして好結果を生むものです。個人成績と得点力がアップすれば、チーム力は上がっていきます。積極果敢な走塁はこのような波及効果もあるのです。ですから、選手たちにはこちらが「止まれ!」とストップをかけるくらいの走りをみせてほしいと思っています。

 とにかく選手たちにはもっと欲を出してほしいのです。より野球がうまくなりたい。そう本気で練習でも実戦でも姿勢が変わってくるでしょう。独立リーグに入ったことで「自分はそこそこやれる」と考えているのなら大間違いです。それは高すぎる自己評価であって、他人はそう見ていません。
 
 特に紀州はNPBで2000本安打を達成した藤田監督が指導をしています。監督の打撃に対するアドバイスを聞いていると、僕も勉強になる点が多々あります。選手たちには大打者から直接教えてもらえる機会を有効に活用してもらいたいものです。

 監督が打撃指導で強調しているのは、「前を大きく振る」こと。高校時代に金属バットを使っている選手たちは、力で強引に巻き込むクセがついています。金属であれば、バットの根っこでも先でも当たれば勝手にボールが飛ぶからです。しかし、木のバットはいいスイングで芯に当てなければ飛距離は出ません。フォロースルーを大きくすれば、ボールとバットの当たる時間を少しでも長くすることができます。「前を大きく」とのアドバイスにはパワーのない選手たちに長打力をアップさせようとの意図が込められているのです。

 ところがチームの中には、監督の指導を誤解し、アッパー気味にスイングしている選手もいます。その時は、監督の考えを分かりやすく噛みくだいてフォローする。これが僕の役割だと考えています。後期も監督のサポートをしつつ、紀州の優勝、そして選手育成に力を尽くしていくつもりです。何としても後期を制し、チャンピオンシップを勝ち抜いて、アイランドリーグ王者、BCリーグ王者とのグランドチャンピオンシップを戦います。ファンのみなさん、暑い日が続きますが、引き続きの応援よろしくお願いします。


河埜敬幸(こうの・たかゆき)プロフィール>: 紀州レンジャーズコーチ
1955年4月18日、愛媛県出身。八幡浜工高から74年、ドラフト5位で南海(現ソフトバンク)に入団。堅守の二塁手として定岡智秋(現高知監督)と二遊間を守った。79年には初の打率3割をマーク。オールスターにも4度出場し、89年限りで現役を引退。その後はホークスの2軍コーチや合宿所の寮長などを歴任し、07年に長崎セインツの監督に就任。翌年、チームは四国・九州アイランドリーグ参入を果たした。09年より藤田平監督(元阪神)の下、紀州のコーチに。現役時代の通算成績は1552試合、打率.268、85本塁打、463打点、141盗塁。兄・和正氏も70〜80年代にかけて巨人のショートとして活躍した。




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 今回は河埜コーチのコラムです。「期待の成長株・太田」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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