球団創設75周年ということで、このところ巨人を特集する出版物が相次いでいる。選手の目玉は3年目の坂本勇人だ。
 昨季、彗星のごとく現れ、全試合に出場した。今季はさらにステップアップし、7月8日現在、打率3割3分4厘で首位打者。いまや巨人の顔である。

 この坂本、2006年度の高校生ドラフト1巡目指名選手であることは、巨人ファンじゃなくても知っている。青森・光星学院時代から野球センスには定評があり、高校通算本塁打は39本。
 しかし、この年には、もう一人、超高校級の大型内野手がいた。中日に入団した堂上直倫である。父親の照は元中日の選手。兄・剛裕も5年前にドラフト6巡目で中日に入団している。直倫は高校通算55本塁打。堂上か坂本か。巨人スカウトの判断は「堂上のほうが上」。ドラフト会議では中日、阪神、巨人が競合し、抽選の結果、交渉権は中日に。巨人は“ハズレ一巡目”として坂本を獲得したのである。

 それから3年。坂本が巨人の顔にまで成長したのに対し、堂上は今季も2軍暮らし。大きな差がついてしまった。もちろん、このままで終わることはないだろうが、坂本に追いつくのは至難の業だ。
 一般の企業においても入社時点では“ハズレ”と見なされていた社員が、数年たって“本命”を追い越していることはよくある。潜在能力をいかにして見抜くか。これは採用担当者にとって永遠の課題といっていいだろう。

 ヤクルト時代、古田敦也、宮本慎也、岩村明憲(現レイズ)などを獲得し、名スカウトと呼ばれた片岡宏雄氏にそのコツを聞いたことがある。返ってきた答えはなんともシンプルだった。「デパートでネクタイを選ぶのと一緒ですよ。パッと目についたものを選ぶ。あれもいい、これもいいと悩むから失敗するんです。スカウトのコツはひと目惚れですよ」。妙に納得した次第。

<この原稿は2009年7月25日号『週刊ダイヤモンド』に掲載されたものです>

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