前期は14勝20敗2分の最下位に終わりました。しかし、残り10試合までは大混戦。一時は全4球団が勝率5割に並んだ時もありました。最後に勝敗を分けたもの……それは勝利へのこだわりだったように思います。
 就任以来、私は選手育成に力点を置いてきました。投手も野手も少々のミスや結果が出ないことには目をつぶり、我慢して使ってきたつもりです。しかし、勝負事である以上、勝たなければ選手も元気が出ませんし、こちらもおもしろくありません。
 
 現に前期優勝の大阪は熾烈な争いを勝ち抜いた結果、後期も現在首位。チーム力が明らかに上がっています。育てながら勝つことは大切ですが、勝って育てることも必要――。そう認識を新たにした私は後期を迎えるにあたり、選手たちに「優勝を目指す!」とはっきり宣言しました。結果の出ない選手は途中で交代するなど、より厳しさをもって試合に臨んでいます。

 当然、勝ちにこだわるためには、それだけの戦力が必要です。ここまでのリーグ戦を通じ、選手たちはそれぞれ力をつけてきました。特に投手では百合翔吾、野手では米田和弘に期待がかかります。百合は前回もチームでNPBに一番近い存在として紹介したように、ここまで主に先発で9勝(9敗)をあげています。

 彼の当初の課題はスタミナでした。この点はトレーニングの成果で完投可能な体力がついてきています。しかし、問題は心のスタミナ。どうしても終盤になると、「代えてくれ」という表情で、ベンチを見るのです。精神的にもうひと踏ん張りできない気の弱さが、上のレベルに行けない大きな原因でしょう。

 そこで、彼にはクローザ―を体験してもらうことにしました。23日の首位・大阪戦、抑えのベテラン・前田勝宏が連投だったこともあり、3−2と1点リードの最終回、百合をマウンドへ上げたのです。百合は四球でランナーを背負いながら、なんとかゼロに抑え、チームを勝利に導きました。リリーフで最終回を逃げ切ることがどんなに大変か、よくわかったことでしょう。と同時に、勝利の瞬間をマウンドで味わうことの喜びも感じてくれたはずです。いずれにしても、緊迫の場面で役割を果たしたことは、彼の自信になったに違いありません。これが百合の心を強くするきっかけになれば、よりワンランク上のピッチャーを目指せると思っています。

 そして、この大阪戦で逆転の2点タイムリーを放ったのが米田でした。彼の開幕当初のポジションはキャッチャー。ところが、彼も精神面で脆さがあり、弱気なリードが目立っていました。足の速さと肩の強さを生かすにはコンバートもひとつの手では? そう考えた私は米田を外野に転向させました。今のところ、これが当たりつつあります。もともとの持ち味に加え、打撃面も向上。外野の間を抜く打球スピードはチームで1番です。

 百合、米田に代表されるように、このリーグの選手は精神的な弱さを持っています。「抑えてやる」「打ってやる」ではなく、「打たれたらどうしよう」「打てなきゃどうしよう」との思いが先に来てしまうのです。では、勝負強くなるにはどうすればいいのか。それは成功体験を増やすしかありません。その意味でも勝ちにこだわることは重要だと言えるでしょう。自分の投球や打撃でヒーローになれれば、それが自信につながり、次も前向きな気持ちで試合に臨めるからです。

 このリーグの選手たちは誰もが一生懸命野球に取り組んでいます。経営面ではゴタゴタが続いているものの、彼らの野球に対する情熱は他の誰にも負けていません。この姿勢がある限り、関西独立リーグは大丈夫です。私たち指導者としても選手を正しい方向へ導きたい、勝つ喜びを味わせてあげたいとの思いは日に日に強くなっています。

 現在、首位・大阪との差は0.5差。いい位置につけています。これからも1試合1試合、勝ちを重ね、最後まで首位争いを繰り広げるつもりです。明石のみなさん、応援よろしくお願いします。


北川公一(きたがわ・こういち)プロフィール>:明石レッドソルジャーズ監督
1941年6月29日、兵庫県出身。甲陽学院高を経て、慶大時代は東京六大学で活躍。64年に近鉄へ入団し、3年目から外野のレギュラーに定着した。現役時代の後半は左の代打としてもプレー。74年限りで引退後は会社員生活を送っていたが、94年より社会人の神戸製鋼のコーチに。クラブチームの全播磨公式野球団でも指導をしていた。関西独立リーグの誕生に伴い、今季より明石の監督に就任。現役時代の通算成績は875試合、打率.240、18本塁打、158打点。






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