「草食系男子」という言葉がはやっている。その場の空気を大切にし、余計な自己主張をしない。つまりガツガツしない最近の若い男性のことを指すのだという。

 サッカーの世界における「草食系FW」といえば、真っ先に頭に浮かぶのが現・京都サンガの柳沢敦だ。
 忘れもしない2006年ドイツW杯。初戦のオーストラリア戦で日本は先制したものの、後半に入って劣勢に立たされた。
 迎えた後半31分、前線でボールを奪った高原直泰がドリブルで持ち込み、ペナルティエリア内に侵入していた柳沢にラストパス。絵に描いたようなカウンターアタックだ。
 ところが柳沢が放ったシュートは消えかけの線香花火のようにシュルシュルとGKの正面へ。日本中が天を仰いだ瞬間だった。

 さらに6日後のクロアチア戦。後半6分、ワンツーで右サイドを突破した加地亮からGKとDFラインの間、絶妙の位置に低いクロスが入った。ゴール前には柳沢。ところが彼はシュートをゴール右に大きく外してしまったのだ。
 試合は0−0で引き分け。この時点で日本の決勝トーナメント進出は絶望的となった。
 試合後、柳沢は言った。
「急にボールが来たので……」
 その発言を聞いて、開いた口が塞がらなかった。どんな時間帯でもどこにいても「オレのところに来い」「オレなら決めてやる」と、常に腹をすかせたチータのように舌なめずりをしているのがストライカーではないのか。「草食系」ではFWは務まらない。

 そこへいくとオランダ1部リーグ・エールディビジのVVVフェンロで活躍する本田圭佑は、日本人としては久々に現れた「肉食系」のゴールゲッターだ。
 本田は8月2日に行なわれた開幕戦PSVアイントホーフェン戦から第4節のフローニンゲン戦までに5ゴールを決めるなど、チームを牽引している。
 この本田、仕事もできるが、口の方も達者だ。
「パスに美学は感じない。今はゴールというものに美学を感じています」
「俺はゴール前だったら絶対にパスを出さない。悪いけど、カラブロがフリーであろうがなんだろうが、前が空いていたらシュートを打つ」
「基本的に小さいころからサッカーは倒れたら負けというつもりでやってきた。あそこはうまく倒れて、PKをもらう選手がうまい選手だとしたら、俺はいい選手ではない」
 ここまで言い切るからには、相当、己の腕に自信があるのだろう。彼の言葉のひとつひとつには、ゴールへの飢餓感が詰まっている。

 このようにエゴをむき出しにする本田に対しては、当然のごとくアンチも多い。「ビッグマウスはチームワークと結束力を武器にする日本代表には向かない」との指摘もある。
 果たして、そうか。世界ランキング39位(8月27日現在)のチームがひとつにまとまったところでせいぜいメダカが川の中で群れているようなものだろう。
 少なくとも前線には「肉食系」が必要だ。ゴール前で舌なめずりしている野獣の姿を見たい。それこそがドイツの教訓ではないのか。

<この原稿は2009年11月号『フィナンシャルジャパン』に掲載されたものです>

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