高知とのリーグチャンピオンシップは3連敗。1つも勝てずに今シーズンが終わってしまいました。相手の高知は主砲のカラバイヨ、盗塁王のYAMASHINに、最多勝左腕の吉川岳など、投打にバランスがとれているチームです。長崎は前期こそスタートダッシュで勢いに乗って優勝できたものの、いくつか課題がありました。そこを克服できなかった点が、そのまま結果に現れたのではないでしょうか。
 後期を迎えるにあたっての課題は2つありました。1つはサウスポー対策、2つ目は控え選手の底上げです。長崎は主砲の末次峰明根鈴雄次など主力の多くが左打者。そのため、どうしても左投手に弱い傾向がありました。後期の戦いで最も期待したのは、彼らの代役として試合に出られる右打者の成長です。ところが、それはうまくいきませんでした。結局、チャンピオンシップでは左腕・吉川の前に第1戦、第3戦を落とします。これが直接の敗因となりました。

 もうひとつ敗因を挙げるとすれば、それは僕の油断です。チャンピオンシップ第2戦、4−1とリードした8回、僕は好投した先発の土田瑞起を9月に入団した長坂秀樹にスイッチしました。長坂は米独立リーグでも何シーズンも経験があり、速球が武器。レギュラーシーズンの終盤でも、いい投球をみせていました。土田は短期決戦ならでは緊張感もあり、このあたりがいっぱいいっぱい。継投策自体に迷いはありませんでした。

 しかし、長坂には一抹の不安がありました。それはコントロールです。彼は海の向こうで長い間、投げてきたこともあり、力勝負は得意なタイプ。また米国仕込みのチェンジアップやツーシームで、バットの芯を微妙にずらし、パワーで勝る相手を打ち取ってきました。

 ただ、日本のボールは縫い目の山が低いため、空気抵抗が小さく、同じ握りで投げてもあまり変化しません。曲がりが小さければ、コースに投げない限り、バットの芯でとらえられてしまいます。日本では米国以上に、繊細なコントロールが要求されるのです。

 残念ながら不安は的中してしまいました。連続四球で走者をため、続く古卿大知にストライクを取りにいったボールを同点3ラン。勝ちゲームを追いつかれ、延長戦の末、敗れました。僕も現役時代からリリーフの経験があるだけに、好投の先発投手の後を投げるのはプレッシャーがかかるもの。長坂も必要以上に力が入ってしまったのでしょう。

「3点差だから、なんとか抑えてくれるはず」
 こちらも心のどこかにそんなスキがあったことは否めません。急な乱調に対応できず、結果的にその後の継投が後手に回りました。1勝1敗で佐世保に戻れば、まだこちらにもチャンスはあったでしょう。あの試合をモノにできなかったことで、流れは完全に高知に行ってしまいました。

 長坂に限らず、アイランドリーグとNPBの投手の差は「ストライクの取り方」にあります。打者からストライクを奪うにはどうすればよいか。1つは「見逃し」です。これには相手のバットが届かないようなボール、または相手が打つ気を起こさないようなボールを投げる制球力が必要とされます。もう1つは「空振り」です。こちらはバットに当たらないスピードか、変化球のキレが求められます。最後は「ファール」。ファールを打たせるためには、フェアゾーンに打球を入れさせない球威か、ある程度のコースを突くコントロールが要求されます。

 基本的にNPBで活躍するクラスの投手は、いずれの方法でもストライクが取れます。しかし、アイランドリーグで狙ってストライクを稼げるのは、各チームで1、2名です。他の投手は、相手打者の打ち損じを期待するしかありません。

 来季はぜひ、「ストライクの取り方」を身につけたチームの軸となる投手を1人でも2人でも育てていきたいと考えています。野手では、今季のウィークポイントだった右の強打者を2人くらい探す方針です。

 この1年間、自分自身、初めての監督業で貴重な経験をさせてもらいました。この財産を生かし、さらにステップアップしていきたいと思っています。1年間の応援、本当にありがとうございました。


長冨浩志(ながどみ・ひろし)プロフィール>:長崎セインツ監督
1961年6月10日、千葉県出身。千葉日本大学第一高卒業後、国士舘大、NTT関東を経て86年、ドラフト1位で広島に入団。1年目から2ケタ勝利をあげてリーグ優勝に貢献し、新人王に輝いた。MAX150キロのストレートを武器とする本格派右腕として、その後も広島の投手陣の要として活躍。95年に日本ハムにトレード移籍し、技巧派リリーフ投手に転じた。98年にダイエー(現ソフトバンク)に移籍し、2連覇に貢献。2002年に現役引退。ダイエー、ソフトバンクコーチを経て、07年からBCリーグ・石川のコーチとして初年度のリーグ制覇を支えた。09年より長崎の監督に就任。






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