今季、新日本石油ENEOSからメジャーリーグのボストン・レッドソックスに入団した田澤純一が大活躍している。

 この8月にメジャー昇格を果たすと、松坂大輔らが抜けた先発陣の代役として、デビュー1カ月で2勝を挙げた。テリー・フランコーナ監督は「経験の少なさを感じさせず、とても落ち着いていた」と評価している。
 昨オフ、田澤は社会人ナンバーワン投手として、NPB(日本プロ野球組織)ドラフト会議の目玉だった。しかし、彼は海を渡った。ドラフト上位候補選手が指名を拒否してメジャー挑戦するのは初の出来事だった。

 レッドソックスは金の卵を大事に育てる方針を立てた。まずマイナーで実績を積ませ、中4日で登板する先発ローテーションに入るための体づくりを優先させた。
 そして満を持してのメジャー昇格だ。ルーキーながら田澤が昇格を果たした背景には、本人の成長はもちろんだが、日本球界へのメッセージも含まれている。マイナーリーグでプレー経験のある元近鉄の佐野慈紀氏はこう語る。
「今回、田澤がメジャーで活躍すれば、日本のプロに行かなくとも、育成プログラム通りにトレーニングすれば、メジャーに昇格できるほどに成長できる。そういったアピールを日本のアマ選手に向けて発信しているのではないか」

 翻って日本の育成システムはどうか。底辺のルーキーリーグから頂点のメジャーまでピラミッド型の組織になっている米国とは違い、NPBは1軍と2軍のみ。2軍の試合数はウェスタンリーグで96、イースタンリーグで108。1軍より明らかに少ない。
 実戦経験を積まなければ、せっかくの才能も芽が出ない。近年は各球団の若手や育成選手を集めて混成チームをつくり、試合を行う試みも増えてはいるが、充分とは言い難い。そのためかNPB2軍が独立リーグや社会人のチームと練習試合をすると負けてしまうケースも目立つ。
 NPBと交流試合を頻繁に行なっている四国・九州アイランドリーグのある監督は現在の2軍選手の印象を次のように語る。
「アイランドリーガーに比べると、素質が違うのは明らか。それでも互角以上の勝負ができるのは、試合経験の差によるものでしょう。NPBの選手たちを見ていると、攻撃のミスショット、守りのミスが目立ちます。投手も1球1球はキレがあり、素晴らしいボールを投げるだけに、もったいない」

 時間をかけて金の卵を育て上げるメジャーリーグと、せっかくの素材が2軍に埋もれがちなNPB。今秋のドラフト最大の逸材と言われる菊池雄星(花巻東高)も、「自分の中ではなるべき早くアメリカに行きたい」とメジャー挑戦に思いをはせている。
 もし彼のような有望な若手が米国でのプレーを望めば、それを止める手立ては何もない。このままではメジャー各球団による日本人選手の“青田買い”はさらに加速しそうだ。

<この原稿は2009年10月号『商工ジャーナル』に掲載されたものです>

◎バックナンバーはこちらから