3試合で13得点、失点0。
 岡田武史監督率いるサッカー日本代表は10月に行なわれた国内3連戦で圧倒的な強さを見せた。サッカーをほとんど知らない人がこのスコアを見れば、W杯ベスト4に向け、視界良好のように感じるかもしれない。
 しかし、この結果を手離しで評価することはできない。日本が戦った国々は、本大会で対戦が予想されるチームとは全くかけ離れた集団だった。

 まず8日にアジア杯予選を戦った香港を見てみよう。彼らは世界ランク128位と完全に格下の相手だ。
 過去を振り返っても、日本が香港に負けた試合は30年以上遡らなければならない。もともと明らかな実力差のあるチームだった。
 とはいえ、この試合はアジアチャンピオンへつながる公式戦だから仕方がない。岡崎慎司(清水)が地元で行なわれた代表戦でハットトリックを達成するなど活躍を見せ、6対0で圧勝した。
 続いて行われた国際親善試合は10日がスコットランド戦、14日がトーゴ戦。スコアはスコットランド戦が2対0、トーゴ戦が5対0。
 マッチメイクされた時点では、両国ともに南アW杯出場の可能性を残していたが、試合当日はすでに予選敗退が確定していた。
 そのため、両国とも主力選手のほとんどが来日せず、その看板に偽りあるチームだった。
 特にトーゴは来日したメンバーがたったの14人。11人で戦うサッカーチームとは思えない人数だ。さらに、これまで代表戦に出場した経験があるのは5人のみで、初めて代表のユニホームに袖を通す者ばかりだった。試合前日に日本へ入り、20時間後にはキックオフという強行軍ではとてもサッカーどころの話ではなかったはずだ。

 こんな調子の試合だから、大勝という結果だけでチーム全体を評価することはできない。ただ、3試合で目についた選手が3人いた。岡崎、森本貴幸(カターニャ)、本田圭佑(VVVフェンロ)だ。全員が昨年の北京五輪代表で年齢も若い。この3人が3連戦で9ゴールを挙げる活躍を見せた。
 特に香港戦、トーゴ戦と2試合でハットトリックを達成した岡崎の成長は目を見張るものがある。彼は昨季の開幕時には、所属するエスパルスでもレギュラーではなかった。途中出場で徐々にチャンスをものにし、代表にも招集されるようになった。
 日本中が岡崎の存在を知ったのは6月のW杯アジア最終予選、アウェーでのウズベキスタン戦だろう。勝てば本大会出場を決めるという大一番に岡崎は先発で出場し、前半9分に泥臭いシュートでゴールを決めた。これが決勝点となり日本は4大会連続のW杯出場を決めた。
 かつて代表で活躍した中山雅史(磐田)を彷彿とさせる気迫溢れるプレーで、今やレギュラーの座を完全にものにしたと言える。
 同じ前線では森本も結果を出した。スコットランド戦で代表デビューを果たし、2得点に絡む抜群の動きを見せた。イタリア・セリエAで4シーズン12ゴールと結果を残している森本は、これまで日本が必要としてきた当たり負けしないFWだ。
 彼にボールを預けることで、周りの選手が動き出すことができる。守備の意識が非常に高いイタリアでもまれているだけに、屈強なDFと対峙しても気後れしない。21歳という年齢からは想像もつかないほど経験豊富な選手だ。
 そして本田。以前このコラムでも書いたが、彼の一番の魅力は自己主張の強いところ。どちらかというと優等生タイプの多い代表にあって、彼のふてぶてしいまでの存在感は異彩を放っている。
 またMFでありながら得点力が高いことも評価できる。今回の連戦でも、出場した試合では必ずゴールネットを揺らしている。どちらもこぼれ球を流し込むだけのゴールだったが、そのポジションにいることが重要なのだ。

 これまで得点力不足に悩まされ続けた日本にとって、この3人は心強い存在だ。
 彼らに共通しているのは昨年の北京五輪での苦い経験だ。上位進出を期待されながらグループリーグで米国、ナイジェリア、オランダに3連敗を喫し、いいところなく大会を終えた。
 一方で、女子代表がベスト4進出という快挙を成し遂げた。それだけに、彼らに対する風当たりは強かった。代表で彼らが必死で生き残りを図ろうしていることと、北京での惨敗は無関係ではないはずだ。
 岡田監督の掲げるベスト4というミッションを成功に導くのは、北京で3連敗を喫した男たちの復讐心かもしれない。

<この原稿は2009年11月17日号『経済界』に掲載されたものです>

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