2010年バンクーバー冬季五輪でのバイアスロンの会場はクロスカントリーやノルディック複合、そしてスキージャンプと同じく、北米で最も人気のあるスキーリゾート地、ウィスラーにあるカラハン・バレーだ。雄大な山々がそびえたつ絶景が一面に広がり、手前からスキージャンプ台、スキー場、そして一番奥にバイアスロン用のスタジアムへと続く。こうした気象条件が目まぐるしくかわる山中で、どんな戦いが行なわれているのか。北海道バイアスロン連盟の出口弘之理事長に競技の特性を訊いた。
(写真:大自然の中、激しい競り合いが行なわれる)
 バイアスロンは周知の通り、大自然との戦いでもある。特にライフル射撃では太陽光線の向きや強度で標的の見え具合が異なる。また雪が降っていたり、霧が立ち込めている場合には、さらに難度は高くなる。そのため、どのように気象条件がかわっていくのか、過去の経験からあらかじめ読み取ることが重要だという。そして試合前にはゼロイング(試射)で照準器を修正し、目で除く部分の穴の大きさをかえる。カメラ同様、晴天で明るい場合はしぼり、曇天で暗い場合は大きめにするのだ。

 また、射撃ではクロスカントリースキーによる激しい動作から瞬時にして呼吸の乱れを整えなければならない。「動」から「静」へ――。これがバイアスロンの最大の特性であり、難題でもあるのだ。また、射撃姿勢も欠かせない要素の一つである。安定した姿勢を保つためには、立ち射撃の場合、左の腰から左足に対して銃が垂直上に乗っているのが理想だ。この時のポイントはいかに筋肉を使わないか。左腕の筋肉のみで銃を支えようとすれば、どうしても震えが生じてしまう。安定させるには銃をギリギリまで体に近づけ、骨盤で支える必要がある。

 こうした射撃独特の姿勢は体の柔軟さや腕、足の長さがあればあるほど有利だという。肘から前が長いと後ろにのけぞる角度が小さくなるために体の震えが少なくなる。また、足が長いとそれだけ骨盤が高い位置にくるため、より自然な姿勢で臨むことができるのだ。一方、伏せの場合は腹部と両肘が地面についている状態で、立ちよりも安定感はある。だが、日常生活にはない姿勢であり、左腕への負担は大きい。左腕に銃をいかに安定させたまま乗せていられるかがポイントだ。

「バイアスロンの姿勢には完成がない」と出口理事長は言う。「よくゴルフにおいても完璧なスイングはないと言いますが、バイアスロンの姿勢も同じ。それでもいかに理想の姿勢に近づけるかどうか。選手たちは日々、そのための努力をしているんです」。バイアスロンの知られざる奥深さが垣間見えるようだ。

 そしてもう一つ。遠くの小さな的を狙う射撃では、やはり視力の良し悪しも関係してくるのではないか。ところが、これには意外な答えが返ってきた。
「確かに昔は視力は大事でしたね。メガネでは汗でくもったり、雪が降っている時には濡れてしまったりしてしまいますから。しかし、今はコンタクトレンズがありますし、それほど視力は重要視されていません。私と一緒にやってきた選手の中には視力が0.4という者もいたくらいですよ」

 ではクロスカントリーについてはどうなのだろうか。スキー板は操作性が求められ、昔に比べると短いものを履く傾向にあるという。だが、短ければ短いほど滑走性は悪くなるため、バランスを考えた板が選ばれている。そのほか、会場によって雪質は異なり、さらには天候によってもかわるため、スキー板に塗るワックスがけは重要だ。これは何よりも経験が生きるという。

 ベテラン選手が表彰台を占めることも少なくないバイアスロン。射撃においてもクロスカントリーにおいても、“経験”がいかされる競技であることは間違いなさそうだ。(vol.3へつづく)

(斎藤寿子)
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