3日、フィギュアスケートに全国のファンが注目した。東京・代々木第一体育館で開催されたグランプリファイナル。表彰台に上がった日本人選手の最上位に来年のバンクーバー冬季五輪の切符を手にするという大一番だ。日本からは、男女合わせて4名の選手が出場した中、力を発揮し早くも出場内定を決めたのが、ともに2位に入った織田信成と安藤美姫だ。残るは男女ともに2枠。25日に大阪で開幕する全日本選手権が最終選考会となる。特に女子は最有力の浅田真央、GPファイナルで3位に入った鈴木明子、安定感抜群の中野由加里……と有力選手が多く、激戦が予想される。果たしてバンクーバーの氷上に降り立つのは誰なのか。今回はその女子フィギュアについて述べたい。
 バンクーバーでのフィギュアスケートのみどころの一つとして挙げられるのが、浅田とキム・ヨナ(韓国)の19歳ライバル対決だ。今シーズンも絶好調のキム・ヨナはグランプリファイナルで見事優勝。バンクーバーでの金メダル獲得に自信を深めている。一方、浅田はGPファイナル進出を逃し、全日本選手権に全てを賭けることとなった。優勝して気持ちよく出場を決めたいところだろう。

 さて、浅田とキム・ヨナの滑りの違いについてよく言われるのがプログラムに入れる技の難易度だ。浅田は女子選手には難しい(現在は浅田を含めて2人)トリプルアクセルを得意としている。「自分にとって一番のアピールポイント」と言い、今や1つの試合でトリプルアクセル3回を入れてくる力の入れようだ。しかし、今シーズンはそのトリプルアクセルにミスが続いている。成功すれば高い得点が狙えるが、失敗すればその分マイナス評価となり、ポイントが下がるだけにリスクは大きいことは間違いない。

 今シーズンも安定感抜群の滑りを見せているキム・ヨナ。実は彼女もトリプルアクセルを練習はしているという。だが、公式戦のプログラムには入れてこない。この違いについて財団法人日本スケート連盟・吉岡伸彦理事に訊いた。
「双方のスポーツに対する考え方の違いが少なからずあるように思います。スポーツをやっているからには高度な技術を追求する人もいれば、勝つことを優先にする人もいる。だから男子でも昨シーズンまでは4回転を跳ばずに優勝することも珍しくなかったんです。
 確かにいくら高い技術に挑戦しても、ミスをすれば、そのものだけでなく、プログラム自体が崩れる可能性も少なくない。そういう点でキム・ヨナがリスクのあることにチャレンジしていないということにはなります。でも、全体的なプログラムの構成を見れば、それほど浅田選手だけが難しいことをやっていて、キム・ヨナが難しいことから逃げているというわけではないんです」

 では、バンクーバーで金メダルを獲るには何が重要となるのか。
「前回のトリノ五輪と比べると、ジャンプをきちんと跳んだ上でのプログラムの完成度が求められてくると思います。ただ、オリンピックは独特な雰囲気がある。完全に自分のベストの演技ができるかというと、他の大会以上に難しい。例えばトリノで金メダルに輝いた荒川静香さんにしても、うまくまとまったプログラムではありましたが、予定したジャンプよりも難易度の低いものに変更したりしているんです」
 つまり、荒川も完璧ではなかったということだ。例えば4回転ジャンプに挑戦した安藤など、プログラム的には荒川よりも難易度の高いものを入れている選手が成功していれば、結果はわからなかった。

「スケートアメリカ(GPシリーズ第5戦)を見てもわかるように、キム・ヨナだって神様ではない。また、彼女がエリック・ボンパール杯(フランス・GPシリーズ第1戦)で出した史上最高得点(合計210点)は、もちろんこれまで出したことのない得点ではありますが、日本の選手の手の届かないところにあるというわけでもない。そのレベルで争えるだけの実力はあります」と吉岡理事。

 思い出されるのは、4年前のトリノ五輪のイリーナ・スルツカヤ(ロシア)だ。それまで絶対的な力を誇っていたスルツカヤもやはりオリンピックのプレッシャーには勝つことはできなかった。
「あの時、スルツカヤは相当緊張していたのでしょう。それまで見たこともないような険しい顔をしていましたから」(吉岡理事)
 フリーでミスが相次いだスルツカヤは結局、銅メダルに終わった。
 
 オリンピックにそれまでの成績は通用しない。実力もさることながら、やはり運もあるのだろう。いや、それが組み合わされて真の実力と言えるのかもしれない。

(vol.3へつづく)

(斎藤寿子)
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