「どの国も楽な相手ではない。ひとつ勝ってもサプライズと言える組み合わせ」
 前日本代表監督イビチャ・オシムの感想だ。

 日本はカメルーン(FIFAランキング11位)、オランダ(同3位)、デンマーク(同26位)と同居するE組。
 英ブックメーカーによる予選突破のオッズはウイリアムヒルが10倍、ゲームブッカーが10倍、ラドブロークスが7倍で、日本はいずれも4カ国中最低。
 全て格上のチームを相手にする日本にとっては「死のグループ」と言えるだろう。

 日本になくて、彼らにあるもの――。それは傑出したストライカーだ。まずはカメルーンのエトー。今季バルセロナからインテルに移籍した、世界を代表するストライカーだ。
 FWに必要なシュート力や強さなど、全てにおいて高いレベルにあるエトーだが、中でも最大の武器はスピード。
 一瞬にしてDFを置き去りにするドリブルは、相手にとって大きな脅威となる。
 昨季、バルセロナでメッシ、アンリと世界最高の3トップを結成し、シーズンを通じて合計100ゴールを生み出したのは記憶に新しい。
 続いてはオランダのファンペルシー。現在、右足首に重傷を負い戦線離脱中だが、本大会に間に合えば、日本にとって怖い存在になるのは間違いない。
 切れ味鋭いドリブルと左足から放たれるシュートはまさにワールドクラス。現在26歳。脂の乗り切った時期にW杯を迎える。
 デンマークにも売り出し中のストライカー、ベントナーがいる。ファンペルシーと同じくアーセナルに所属する彼の武器はなんといっても高さ。193センチの長身から叩きつけられるヘディングは強烈の一言。しかも近年では、足下の技術も確実に向上している。ただデカいだけの選手ではない。

 日本のDF陣が彼らを止めるのは至難の業だ。
 テストマッチのオランダ戦がそうだったように、日本はプレスのきく前半は強国を相手にしても互角の戦いを演じることができる。
 しかし、足が止まると集中砲火を浴びてしまう。オランダ戦では後半だけでまとめて3点も奪われてしまった。
 日本代表は今季17試合を行い12失点を喫しているが実にこのうち10失点が後半に集中しているのだ。
 ヨーロッパで活躍するエトーやファンペルシー、ベントナーは蟻の一穴。ちょっとしたスキも見逃さない。
つまり、日本が警戒すべきは後半だ。残り約6カ月、技術よりも体力に重きを置いたトレーニングを課すべきではないか。

「今回のW杯は波乱が起こる気がするから、何とかそこに参加したい。ベスト4の目標を変えるつもりはない」
 岡田武史監督は、どこまでも強気だ。
 波乱要因の第一は、高地に試合会場が集中していることである。
 カメルーン戦の会場は標高1400メートルのブルームフォンテーン、2戦目のオランダ戦は海沿いのダーバンだが、3戦目のデンマーク戦は再び標高1500メートルのルステンブルク。
 日本代表は高地対策として5月下旬、約2週間にわたって標高約1800メートルのスイス・バレー州のザースフェーで合宿を行う予定。低酸素でのプレーに慣れることでハンディキャップをアドバンテージに転化しようというわけだ。

 いずれにしても、初戦のカメルーン戦が重要な一戦となる。勝ち点3が理想だが、勝ち点1でも悪くはない。
 4年前のドイツW杯では初戦のオーストラリア戦に1対3と逆転負けした時点で、1次リーグ突破には赤信号が灯ってしまった。
 なにしろ2戦目クロアチア、3戦目ブラジルと、徐々に相手が強くなっていったのだから、初戦での勝ち点0は致命的だった。2戦目のクロアチアに引き分けた時点で、事実上のジ・エンドだった。
 今回、不幸中の幸いは勝負の3戦目がデンマーク戦であるということだ。
 もちろんデンマークとて格上の相手であることに違いはない。しかし前回のブラジルのように、はなから勝ち目がないという相手ではない。
 そのためには2戦目のオランダ戦で燃え尽きず、余力を残しておきたい。
 日本代表には肉体面同様、精神面でのタフネスも求められる。

<この原稿は2010年1月1日号『週刊ゴラク』に掲載されたものです>

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