来春スタートするジャパン・フューチャーベースボールリーグ(JFBL)の三重スリーアローズの監督を務めます松岡です。これからよろしくお願いします。監督就任の打診があったのは今年の春。社会人クラブチームの西多摩倶楽部の監督を務めていた私に、球団設立準備を進めていた壁矢慶一郎代表からクラブの前監督、谷澤健一さん(現三重球団アドバイザーツーオーナー)を通じてお話をいただきました。野球人としてユニホームを着る機会をもらえるのはありがたいこと。数日後、代表自ら私に会いに来ていただいた時には、もうお引き受けする気持ちは固まっていました。
 クラブチームを指導していたため、試合こそ見る機会がなかったものの、僕にとって独立リーグは気になる存在でした。現役時代にヤクルトでバッテリーを組んだ芦沢(真矢=BCリーグ新潟監督)君や、コーチ時代に教えた加藤(博人=アイランドリーグ徳島コーチ)君が指導者として活躍していることもあり、その動向はメディアを通じて随時、チェックしていたのです。「チャンスがあれば、独立リーグで教えてみたいな」。そんな思いも心のどこかにはありました。

 現役引退後、プロの畑でコーチ、解説をしてきた自分には、西多摩倶楽部での3年間が非常にいい経験となっています。長丁場のシーズンを戦うプロとは違い、アマチュアはトーナメントの一発勝負。戦い方の違いにとまどったのはもちろんですが、最も大変だったのは選手たちの意識の差です。プロの選手はわがままな部分もありますが、それぞれが自分なりの価値観を持ち、「勝ちたい」「うまくなりたい」という意欲にあふれています。もちろんアマチュアにもそういう選手もいないわけではありません。ただ、チーム内には「野球を楽しめればいい」「野球を通じて実生活に役立てばいい」という考えの選手もいます。チームに求めているものが、個々人によって大きく異なるのです。結果が出ないとすぐにフェードアウトしてしまうような選手もいて、どう接するべきか随分悩みました。

 それでもチームスポーツである以上、1つの目的がなければ全体がまとまりません。そこで僕は「楽しむこと」「感謝すること」をチームの柱に据えました。選手たちは全員、野球が好きで集まっているメンバーです。せっかくの休日を割いて来るのですから、好きでなければ続けられないはず。「それなら“楽しむ”ために練習をしよう」「休日を割いてサポートしてくれるスタッフ、仲間たちに“感謝”しよう」。そんな話を選手たちには繰り返しました。これらの意識がどこまで浸透したかは分かりませんが、若い選手に接するノウハウは学んだつもりです。

 西多摩倶楽部と違い、三重スリーアローズはプロですから、目的ははっきりしています。勝てる選手、成長が期待できる選手は試合に出られますし、そうでない人間は競争から振り落とされます。その点はアマチュアより明確であり、厳しい部分でもあるしょう。今回発表した新入団選手の中には7名の独立リーグ経験者がいるとはいえ、彼らがレギュラーとは限りません。もちろんチームの核として引っ張ってほしい気持ちはありますが、競争は平等です。プロは上を本気で目指そうと1年間、努力する者だけが生き残る世界。2月のキャンプは全員が横一線と捉えて臨んでほしいと思っています。

 おかげさまでコーチ陣には元中日の藤波行雄、前原博之と優秀な指導者を迎えてもらいました。野手の細かい指導はこの2人にお任せすることになるでしょう。僕の役割はチーム全体の統括と投手育成になりそうです。必然的に選手同士の競争は激しくなりますから、こちらから追いこんで彼らを委縮させるようなことはしないつもりです。むしろ実力を充分発揮できるよう、のびのびと野球をやらせ、のびのびとゲームに臨めるようにしたいと考えています。

 やるからには目標は大きくなければいけません。僕は「日本一のチーム」をこの三重につくりたいと願っています。壁矢代表を始め、地元のみなさんのサポートのおかげで、選手寮に練習場と1年目から野球に打ち込める環境を整えていただきました。あとはこちらが結果で地元にお返しをする番です。独立リーグ日本一を目指すことはもちろん、ひとりでも多くのNPB選手を誕生させたい。1年、2年、3年と結果を積み重ねる中で、みなさんに愛されるチームに育てたい。今はそんな思いでいっぱいです。

 開幕は来年の4月。みなさんの声援は必ず選手たちの励みになります。ですから、ぜひ球場へどんどん足を運んでください。応援、よろしくお願いします。


松岡弘(まつおか・ひろむ)プロフィール>: 三重スリーアローズ監督
1947年7月26日、岡山県出身。倉敷商高、三菱重工水島を経て68年、ドラフト5位でサンケイ(現東京ヤクルト)に入団。2年目からローテーション投手に定着し、速球を武器にチームの主力投手として活躍した。71年から6年連続で2ケタ勝利をマークすると、78年には16勝11敗2セーブの成績で球団初のリーグ優勝、日本一に貢献。沢村賞を受賞した。80年には防御率2.35でタイトルを獲得。85年限りで引退後はヤクルトの投手コーチ、野球解説者を務めた。現役時代の通算成績は660試合、191勝190敗41セーブ、2008奪三振、防御率3.33。06年からは社会人クラブチームの西多摩倶楽部で指揮を執った。




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 今回は松岡監督のコラムです。「鈴木平&加藤博人の育成法」。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。
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