ついに南アフリカW杯のグループリーグ組み合わせが決定しました。日本が入ったのはカメルーン、オランダ、デンマークのいるE組。岡田武史監督が“ベスト4”を目標にしていますが、E組の顔ぶれを見る限り『運がなかった』と思わずにはいられません。

 この組み合わせで最も大切なのは初戦の入り方です。カメルーンから勝ち点3を奪えば残り2戦を戦う上で精神的に余裕を持つことができます。逆に引き分けや負けでは決勝トーナメント進出の可能性は一気に低くなるでしょう。カメルーンはアフリカ開催のワールドカップということもあり、かなりモチベーション高く試合に臨むことと思いますが、そこは日本にとっても突きどころになります。おそらくほとんどの観客はカメルーンを応援することになる。そこで少しでも声援を重圧に感じ動きが硬くなればチャンスは広がります。そんな中、先制点を奪うことができればしめたもの。残り時間が少なくなればカメルーンはタテ一本のパスを頼りにしてきます。こうなれば攻撃はどんどんと単調になっていきますから勝機はどんどんと広がります。なにはなくとも落ち着いて試合に入り、カメルーンから先制点を奪うこと。これが日本代表に課せられた最初のミッションと言えます。

 3戦目に戦うデンマークは相当厄介な相手です。日本にとって最もやりづらいタイプはタテに速いフィジカルの強い相手だと考えます。それに当てはまるのがヨーロッパ勢、本大会に出てくる国ではまさにデンマークがこのタイプです。とはいえ、端から勝てないという気もありません。大事なのは引き分けに持ち込み勝ち点を1でも加算すること。戦いにくい相手ではありますが、負けない戦いならば通用する可能性もあります。ここでは確実にドローに持ち込みたいですね。

 シード国のオランダですが……、ここから勝ち点を奪うのは難しいでしょう。シード国ならば、組織よりも個人技に頼りがちな南米勢のほうが、まだ勝ち点を奪う可能性はあったように思います。アルゼンチンあたりが最も組み易い相手だったでしょう。オランダもデンマーク同様タテに速い国ですし、一度火がついたら止められない爆発力があります。日本は9月に痛い目に遭っていますよね。オランダは自分達の色を持っています。どの選手が出てきてもチームとして同じ戦い方が出来ます。片や日本は選手が変わってしまえばサッカーの内容、質ともに変化してしまう。さらに選手個々人の役者はオランダに軍配が上がる。こうなると、勝ち点を加算するのは難しいと言わざるを得ません。

<決勝トーナメント進出の確率は30%>

 日本が決勝トーナメントに進出する確率は現状では30%くらいでしょうか。星勘定するならば、カメルーンに勝ち、オランダ戦は落としてもデンマークに引き分ける。1勝1敗1分けで得失点差で2位に滑り込めれば恩の字です。そのためには先述したように必ず初戦を勝たなければいけません。ここで勝ち点3を逃がせば一気に決勝トーナメントへの扉は閉ざされます。先手必勝。この精神が岡田ジャパンに求められます。

 現状では30%しかない確率を少しでも上げるために、代表チームは何をすべきか。まずはDF陣がイージーミスをなくすことです。最近の代表戦をみるにつけ、非常に初歩的なミスが目立ちます。世界最高峰の舞台では、一つの小さなミスが取り返しのつかないものになります。サッカーはミスをしたら負けるスポーツです。セーフティーファストの戦い方がDF陣には求められます。
 また、組織の再構築も必要でしょう。対戦国のFWはどの選手もスピード溢れるプレーヤーばかり。1対1での勝負では太刀打ちできません。個で抑え込むことができないならば、組織で守りきるしかありません。DFラインがより密に連係をとって相手がスピードに乗る前に包囲網を作り上げること。これも勝ち点を加算するには必要不可欠な作業です。

 中盤の課題もパスミスを減らすこと。センターサークル付近でインターセプトされれば、即ピンチに繋がります。オランダ、デンマークの欧州勢はとにかくボールを奪ってからのカウンターが速い。スキを見せれば必ずそこを突いてきます。攻撃の手を増やすことも必要ですが、残り半年間でミスをしない意識を共有してもらいたいですね。
 FWについてはフィニッシュの精度向上につきます。これは日本にとって永遠の課題とも言えますが、体ごと気迫でボールをゴールへ押し込むような選手が出てきて欲しい。Jリーグで優勝を決める働きをした興梠慎三などに期待したいところです。

 最後に、話題に上ることの多い高地について触れておきましょう。平地と比べ体力の消耗が激しい高地での試合ですが、これは日本だけにメリット・デメリットがあるわけではありません。当然、対戦相手も対策をしてきますし、選手一人ひとりでも環境対応に向き・不向きがあります。色々なことが起こりうる状況ですから、冷静に適切に判断する力が求められます。
 確実にいえることは、運動量で圧倒するサッカーを展開することは不可能ということです。やはり通常の試合よりも疲労は激しくなりますし、大会を通じてコンディションを維持するためには1試合のために玉砕するわけにはいきません。ペース配分を真剣に考える必要があります。チームとして求められることは、必要な対策を講じてどのような状況にも柔軟に対応できるように準備しておくことです。
 ただし、勝つだけの技量がなければ高地であろうが低地であろうが関係ありません。まずは自分達のサッカーが本番で披露できるか。それが第一です。その上で高地というファクターが自分達にとってプラスになるのかマイナスになるのか。これは始まってみないとわかりません。高地という条件が、日本にとっていい方へ転んでくれることを願うばかりです。

<鹿島3連覇のキーマンは?>

 最終節まで大混戦だったJリーグですが、鹿島アントラーズが史上初の3連覇を達成しました。リーグ終盤では負けられない戦いが続きましたが、鹿島にとって大きかったのは中田浩二の復帰でしょう。彼が中盤の底で安定感のある動きをみせたことで、チームは一気に落ち着きを取り戻しました。中田が中盤に入った29節磐田戦から6連勝で優勝を勝ち取ったわけですが、彼の復帰がなければ3連覇は達成されていなかったように思います。
 彼の起用も含めてオズワルド・オリヴェイラ監督の手腕が土壇場で光りましたね。中田以外で中盤のキーマンになったのは野沢拓也でしょう。MVPを獲得した小笠原満男の負担を少なくし、まわりをうまく動かすことに成功しました。今の鹿島は若手が順調に伸びながらクラブとして結果も出している。この先もチームの核として動くことのできる選手が、それぞれのポジションで出現したのは非常に大きいことです。

 私的なMVPを一人選ばせてもらえるならば、岩政大樹を挙げたいと思います。一年間安定したパフォーマンスを披露し、常にチームを支え続けました。本当に真面目な選手で少しずつコツコツと積み上げてクラブに欠かせない選手へと成長しています。今の彼の力ならば代表に入っても十分に通用するはずです。中澤佑二、田中マルクス闘莉王に匹敵するポテンシャルを持っていますから、南アフリカでの活躍も見たいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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