投手コーチとして千葉ロッテ、ヤクルト、福岡ダイエー(現ソフトバンク)、巨人の4球団を渡り歩き、7度のリーグ優勝、4度の日本一に貢献したのだから「優勝請負人」といっても過言ではあるまい。

 2年連続最下位と“底割れ”状態の横浜が「日本一」の投手コーチ尾花高夫を監督に抜擢した。横浜にとっては縁起のいい人選だ。1998年、38年ぶりのリーグ優勝、日本一に導いた権藤博も投手コーチ上がりだった。

 尾花の投手コーチとしての手腕を物語る数字がある。尾花が巨人の投手コーチに就任する前年(05年)、巨人のチーム防御率は4.80(リーグ6位)だった。それが翌年、すなわち尾花が投手コーチに就任すると3.65(3位)にまで改善された。
 被本塁打数は182(6位)から135(4位)、与四球は410(4位)から335(1位)へ。尾花イズムの浸透がはっきりと見てとれる。
 指揮官になったからと言って尾花のこれまでの野球観が変わるわけではあるまい。おそらく投手陣を中心とした守りの野球を目指すはずだ。

 そこで今季の横浜のチーム投手成績を見てみると、これがボロボロなのだ。妙な言い方だが、さすがに最下位の球団だけのことはある。
 防御率4.36(6位)、被安打1326(6位)、被本塁打164(6位)、与四球425(5位)、失点685(6位)――。いったい、どこから手をつけるつもりなのか。
「なぜ四球が、こんなにも多いのか。四球の原因は主に2つあります。ひとつは技術的に未熟であること。これはブルペンでストライクを投げさせる練習をすることによってしか解決しない。
 2つ目はメンタル的な理由。ピッチャーは“打てるもんなら打ってみろ!”と腹をくくって投げなければいけない時がある。それを避けていたのでは、いつまでたっても上達しない。どうも横浜のピッチャーには、勝負する前に負けているようなところがあった。これでは話にならない」

 尾花が四球の数にこだわるのには理由がある。尾花は社会人野球の新日鉄堺からヤクルトに入団し、1年目1勝(0敗)、3年目4勝(9敗)、3年目8勝(13敗)と勝ち星を着実に積み上げていった。
 しかし勝ち星以上に黒星が増えていく。いったい、どこに原因があるのか。投球データを調べてみて、あることに気づいた。
「自分はコントロールがいいと思っていたのですが、実は思っていた以上に四球が多かった。減らすにはどうするべきか。とりあえず、まず1球目はストライクをとろうと。打たれてもいいからと思ってストライクを投げると、これが意外と打たれない。そこからピッチングのコツを掴んだんです」
 14年間の現役生活で2203イニングを投げて、押し出し四球はゼロ。これは隠れたプロ野球記録である。
 最下位脱出は四球数の大幅カットから。果たして名投手コーチは名指揮官たりえるのか――。

<この原稿は2010年1月3・10日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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