民主党政権となり100日が経過した。毎日のように政治ニュースが各メディアを賑わせているが、その中でも国民の注目を集めたのが事業仕分けだろう。公開の場で予算のムダを省いていく様子が連日報道された。この事業仕分けの中で期せずして注目を集めたスポーツがリュージュである。
(写真:トリノに続き2大会出場の原田)
「リュージュ、ボブスレーなど日本で普及していない競技にも補助が必要なのか」。仕分け人が競技名を挙げて批判の的になってしまったリュージュは、ボブスレー、スケルトンと同様に氷のコースを高速で滑り降りるスポーツだ。両手で反動をつけスタートし仰向けでソリに乗りそのままコースを滑走する。体よりも小さいソリから生み出されるスピードはボブスレーよりも速く、男子一人乗りでの最高速度は153.98キロ、女子でも140キロオーバーにもなる。

 日本では女子一人乗りの原田窓香(信州大)が第一人者だ。先日行なわれた日本選手権を制し7連覇を達成。バンクーバーオリンピック出場の基準タイムをクリアしており、JOCからの推薦を待つのみとなっている。同じく女子一人乗りでは安田文(北海道連盟)も代表に選出される見込みだ。男子一人乗りの小口貴久(ホテルルーエ)の出場も有力だが、日本は男子の出場枠を持っていないため出場に至るかは未定。「おそらく、残り2、3枠の中には入っている」と高松一彦日本代表ヘッドコーチと話しており、年明けには出場の可否が決まる予定になっている。

 日本選手権7連覇中の原田の強みは安定感のある滑りだ。ソリにどっしりと乗るためスピードが出る上、左右のブレが少なくロスが少ない。今季は筋力アップを心がけ、課題となっていたスタートでも速さを増した。日本選手権では自己最速の飛び出しを見せている。

 マイナー競技の代名詞のように扱われてしまったリュージュだが、日本に限らず競技人口はそう多くない。最も盛んなドイツこそ4万人の競技者がいるが、他の国に目を向けると代表選手数=競技人口という国もあるほどだ。

 リュージュが普及しづらい理由を「遅くとも14、15歳頃までに始めなければ、選手として育たないこと」と高松は話す。
「競技を始めても競技会のスタートラインに立つまでに7、8年かかります。ボブスレーやスケルトンは比較的少ない競技経験でも滑ることができますが、リュージュの場合、失敗した時に自然に体が反応しなければ大事故になるんです」

 それならば若年層の育成に力をいれればいいのではないか。しかし、現実はそう簡単ではないようだ。「体験会を年に数回行なっているため、北海道ではリュージュを滑った経験のある人は意外といるんです。しかしそのまま選手になろうという人は少ない。本格的に取り組むにしても、子供は親の援助がなければ練習場所に行くこともできません。体験者だけなら札幌には2000名くらいいるでしょうが、正規のスタートラインから滑ることのできる選手は8名くらいしかいません」と高松は現状を説明した。

 他国ではユニークな方法でリュージュの普及を行なっている。米国では「スライダーサーチ」と呼ばれるイベントを行い才能を発掘している。坂道のある街で開催されるこの催しでは、一般道を封鎖しローラーのついたソリで地元の子供達による競走を行う。その大会で優秀な成績を収め才能を見出された者が、冬を待ってソリに乗り換えてリュージュに挑戦し、さらに欧州遠征などの経験を積むことで競技へ親しんでいくという。オリンピック代表にまでなった選手が、雪とは縁のないカリフォルニア出身の選手という例もある。

「チームとしては結果を求められるのは当たり前。結果が残っていなければ批判されても仕方がない。しかし、自分たちでマイナーという宣言をしてはいけない」と百瀬定雄日本代表チームリーダーは語った。リュージュ競技の大会運営ではボランティアで働く医師や支援者が大勢いる。彼らのほとんどはリュージュという競技の魅力に取りつかれて競技を応援している。競技を支える多くの人々に応えるためにも、バンクーバーでは今まで以上に、よりよい結果を収めたい。

 原田、安田の目標は世界トップ10入りだろう。事業仕分けで予算削減の窮地に立たされているが、リュージュの存在をアピールする格好の場面ともなるオリンピック。世界のトップにどこまで迫ることができるか実感することも重要だが、彼女達の滑りでスピード感溢れる競技の魅力をより多くの国民に知ってもらうことこそ、バンクーバーでの最大の目標になるかもしれない。

(大山暁生)
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