雪や氷とはあまり縁がない南国・愛媛にメダル候補がいる。スノーボード・ハーフパイプの青野令(松山大)だ。2006−07シーズン、16歳でW杯年間王者に輝くと、昨季は韓国で行われた世界選手権を日本人で初めて制した。プロボーダーを多数擁する米国の強豪たちを相手に、19歳の若武者はどんな滑りを見せるのか。青野が地元の練習拠点にしている屋内ゲレンデ「アクロス重信」を運営する久万総合開発・田村信介社長とともに当HP編集長・二宮清純が夢舞台への意気込みを訊いた。
二宮: バンクーバー五輪まであとわずか。今の心境は?
青野: ワクワクとドキドキが入り交ざった複雑な気持ちですね。

二宮: もうバンクーバーの会場では滑りましたか?
青野: はい。ハーフパイプの横に林があって、風をさえぎってくれる。風が吹いた中で試合をするのは苦手なので、いいコースかなと思っています。

二宮: 今回、出場すれば初の五輪になります。前回のトリノ大会もハーフパイプはメダルも有力視されていた競技でした。ところが男子の結果は4選手とも予選落ち。テレビで見ていて感じたことは?
青野: 僕はそのシーズンから、代表選手と一緒にW杯をまわらせてもらって、そのうまさは肌で感じていました。僕もメダルを取ってくれると確信していたので、ああいう結果になって、すごく悔しかったですね。

二宮: 青野選手には「今度こそ」との期待がかかっています。ただ、メダルを獲るには強敵のアメリカ勢を倒さなくてはいけません。
青野: 彼らは手ごわい存在ですね。アメリカはスノーボードのイベントが多くて、見せ方をよく知っている。同じ選手の立場から見てもカッコいいと感じますから。

二宮: アメリカ勢を倒すためのポイントはなんでしょう?
青野: 自分は高さで勝負したいと考えています。フラットスピンで勝てればうれしいです。

二宮: 今、演技の完成度は?
青野: ずっと五輪に向けてやってきたんで80パーセントくらいです。残り20パーセントは、そういう見せ方の部分も練習しつつ、仕上げていきたいと考えています。

二宮: 田村社長は青野選手の成長を間近で見てきました。もう完成形に近づいていると思いますが、メダル獲得に必要なものは?
田村: 小さい頃から比べると、すべての面において上達しましたが、やはりメンタル面でもっと強くならないといけない。それから本人を言っていたように風に弱い点も課題です。日本人は体が小さいために風の影響を受けやすい。でも、それでは世界で勝てないわけですから、野外の環境でさらに経験を積む必要があると思います。

二宮: 青野選手と最初に会った時から素質を感じましたか?
田村: 彼を最初に見かけたのは確か小学校3、4年生頃だったと思います。まだアクロスがオープン2年目でジュニアのボーダーは少なかった。もちろん、その頃はまだ滑りに特徴はなかったですけど、親御さんも一生懸命で本人も楽しそうにやっていたのが印象に残りました。

二宮: 愛媛は野球を筆頭にスポーツが盛んな県ですが、気候的な問題もあってウインタースポーツで全国レベルの選手はなかなか出てこなかった。そんな南国に国内最大級の室内ゲレンデを設立しようと考えた動機は?
田村: 私はそれまでにスキー場を15年くらい運営してきたのですが、地球温暖化の影響で年々、降雪量が減ってきて人工雪が欠かせない状況になっていました。「これはいずれ四国でスキーができなくなる」。そんな危機感を先代の社長と抱いていたんです。そこで最初はスキー場に日よけと雨よけの壁と屋根を設ける計画を立てました。すると、どんどん話が膨らんで「それなら室内のゲレンデをつくればいいじゃないか」と。それなら何も山の上に建設する必要もないので、高速道路のインターチェンジの近くでアクセスのいい平野部につくることになりました。
 ただ室内だと、どうしてもゲレンデの規模は限られる。リピーターを増やすためには初心者から上級者まで通ってくれるしかけが必要でした。そこで思いついたのが、ハーフパイプだったんです。

二宮: 今や愛媛は青野選手の他に、渡部耕大選手や藤田一海選手なども出てきてスノボー王国です。こんな日が来るとは夢にも思いませんでした。愛媛から冬季五輪の代表選手が誕生する。これだけでも快挙ですよ。
青野: それはうれしいことですね。でも、自分のしたい演技ができないと、ただ出ただけで終わってしまう。どうせなら結果を残して、愛媛に帰りたいです。

二宮: 先程、田村社長からメンタル面の話が出ました。青野選手自身はどうみていますか?
青野: メンタルが強いとは思わないですね。メンタルと一言で言ってもつかみどころのないものなので、すぐに強くする方法はない。だから、今のところはスノーボードの技術を上げていくことでメンタルの部分をカバーしようという気持ちが大きいです。

二宮: 私は何度か青野選手と対談してきて、いい意味での図太さを感じますよ。
田村: 彼は小さい時からあまり周りに影響されない性格かなとは思います。どちらかというとマイペース。

青野: でも最初は大会のたびに緊張して、何をやったのか覚えてないことがよくありました。遠征に行っても枕が変わると寝られなくて、寝付きがすごく悪かったんです。経験を重ねることで、だいぶ平常心で試合に臨めるようになってきました。今は逆にどこでも寝られるので、不安なくらい(笑)。
田村: 確かに国内での活動がメインの時は、本番に弱い面がありましたね。若いうちから世界で戦ってきたことが彼を変えたのでしょう。

二宮: 世界のトップクラスで勝ちぬくには、フィジカルやテクニックだけでなく心理面も大きなウエイトを占めます。周りの選手からプレッシャーをかけられたりすることもあるのでは?
青野: スノーボードの場合はちょっと違いますね。ピースな雰囲気の人が多いので、他国の選手でもいい演技をしたら、拍手をするし、「イェイ!」とか言って盛り上げてくれる。なのでプレー自体はしやすいですよ。

(Vol.2につづく)

<この対談はあいテレビで1月3日に放送された『青野令スノボードにかける想い』でのインタビューを元に構成したものです>
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