全日本スキー連盟は13日、バンクーバー五輪出場メンバーを発表し、青野は正式にスノーボード・ハーフパイプの代表選手として選出された。愛媛県出身者が冬季五輪に出場するのは初めてだ。今回は先週に引き続き、当HP編集長の二宮清純が本人と久万総合開発・田村社長に、スノーボードの魅力や競技者にしかわからない感覚、道具へのこだわりなどを訊ねた。
二宮: スノーボードにもさまざまな種目がありますが、ハーフパイプを選んだ理由は?
青野: やはりアクロス(重信)でハーフパイプを滑っている人が一番カッコよく見えたんです。とりあえずカッコいいことをしたいなと思っていたので。
田村: 令が小中学生のころには、同じ年代の仲間が5人くらいいたんですけど、ダンボールでスノーボードを履いた人形を作って、それにいろいろな技をやらせて遊んでいました。遊びでしたけど、これはいいイメージトレーニングになったと思っています。

二宮: つまりスノーボードが遊びの延長だったんですね。強制的にやらされたわけではなく、自発的に楽しみながら練習していた。だからこそ成長できたんですね。
青野: 最初は何も技ができないし、どうすればできるかも全くわからない。先輩がやっている技をマネするところから始めたんですけど、やはり人と違うこともしたいなという気持ちもありました。だから、その遊びで思いついたことをどんどん試してみたんです。それができるようになると本当に楽しかったですね。

 着地点は“覗きにいく”

二宮: 高く跳んだり、回転している間に目が回りませんか?
青野: 意外と回ったことはないですね。陸上のトランポリンではありますが。

二宮: 大技にチャレンジして着地で失敗してしまうケースもありますよね。着地の感覚はもちろん練習の繰り返しで覚えていくものだと思いますが、飛んでいる間に目でも雪面を確認しているのですか?
青野: そうですね。見るというより、自分で覗きにいく感じでしょうか。たとえばフラットスピンだと着地部分が1回見えなくなります。そこから、いかに素早く着地点を覗きにいけるかが大切です。その着地点から逆算してスピンをきれいにあわせる形になりますからね。よく空中で選手の首が変な方向に曲がっていることがありますが、それは着地点を覗いているんです。

二宮: 覗くといってもほんの一瞬ですよね。そんな短時間で調整できるものですか?
青野: 普通は跳んだ瞬間に感覚で分かります。着地点を覗きに行ってもわからない時は、リップ(跳び出し口)の部分にブルーラインが入っているので、そこを見て自分の位置を確認します。リップの内に返っているときはいいのですが、外に出てしまった時は対処のしようがない。お尻に力を入れて、ケガしないようにこけることを考えるだけです。

二宮: 雪上で滑るとはいえ、しっかり固めてありますから着地に失敗すると痛いでしょう? これまでで一番痛かった経験は?
青野: ボードで脚が固定されているので落ちると脚がクチャと曲がってくじいたり、捻挫するのは日常茶飯事です。あとは踏ん張れないので体がモロに衝撃を受けてしまいます。これは言っていい話かわかりませんが、股を打った時が一番痛かったです。

二宮: それは股関節が痛いと?
青野: いや、もう真ん中ですね(笑)。今までたった1回なんですけど、打った瞬間は全然痛くなかった。ところがだんだん腫れてきて、ものすごくつらかったんです。翌日、触ってみたら自分のものじゃないような……(苦笑)。初めての感触でした。
田村: スノーボードのハーフパイプはリップからボトム(底面)までの高さが6メートル弱。さらにそこから3メートルくらいジャンプしますから、失敗すると8〜9メートル上から落下することになる。あらゆるスポーツの中で、あの高さからそのまま落ちる可能性がある競技はあまりないでしょう。

 ボードに託した思い

二宮: 体操競技や棒高跳びなど高く跳ぶ競技はあっても、下にマットが敷いてありますからね。他に固いところにそのまま落ちるのはスキーやスノーボードのジャンプくらいかもしれません。
 さて、今回は青野選手に実際のボードも持ってきていただきました。長さはどれくらいですか?
青野: 約154センチです。カーボンが入っているので、重さはあまりないです。

二宮: 板はもう自分の体の一部のような感覚ですか?
青野: スノーボードをしているときは、ほとんどずっと一緒ですからね。だから、板は大切にしたいし、板を信じています。

二宮: できれば枕元に置いて寝たい気分?
青野: 小さい頃は抱いて寝たいとは思いましたね。ただ、エッジが尖っているので本当に寝たら顔中傷だらけになりますけど(笑)。

二宮: ワックスは自分でかけるんですか?
青野: いや、会場の環境や天候によってワックスを変えたりするので、さすがにそこまでいくと僕たちでは難しい。専門の担当者にお願いしています。
田村: その日の雪質や天候、温度や湿度、傾斜などを考慮してワックスをかけますからね。すごいノウハウですよ。

二宮: 色は赤と黒の縞模様ですが、これは?
青野: このボードは自分がデザインしたんですけど、赤は自分の勝負カラー。でも真っ赤なボードもヘンなので、日本っぽく習字の筆で書いたように黒を入れました。

二宮: 両手を挙げているボーダーのイラストが描かれていますね。これは青野選手をイメージしたと?
青野: はい。自分がガッツポーズしている写真を影にして入れてくださいとお願いしました。演技の後で、自分の納得いく滑りができてガッツポーズできるようにと。自分の思いをボードに託していると言えるかもしれません。

(Vol.3につづく)
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<この対談はあいテレビで1月3日に放送された『青野令スノボードにかける想い』でのインタビューを元に構成したものです>
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