青野がスノーボードやウェアの契約を結んでいるヨネックスといえば、今をときめくプロゴルファー石川遼をスポンサードしていることで有名だ。年齢は1つ違いで、名前も同じ読み方とあって、社内には“Wリョウ”として売り出したいとの声もあるという。青野自身は同年代のアスリートをどう見ているのか。地元・愛媛への思いや今後の夢と合わせて、前回に引き続き当HP編集長の二宮清純が本人と久万総合開発・田村社長に訊ねた。
 イチロー、ヒデに会いたい

二宮: “リョウくん”といえば石川遼君。年も近いですから、よく比較されると思いますが、どうですか?
青野: まず稼ぎが違いますよね。僕らも勝てば賞金は出ますが、ケタが全然違います(笑)。

二宮: 金メダルを獲って有名になれば、スポンサーがたくさん集まるかもしれませんよ。
青野:そうですね。金メダルを獲って、彼と並べるくらいになったらいいですね。

二宮: 同世代のスポーツ選手で自分がライバルだと思っている選手は?
青野: ライバルだ、と感じる選手はいないですね。でも他のスポーツを見るのは好きなので、同世代ではないですが、野球のイチロー選手とか、サッカーの中田(英寿)さんにはお会いしてみたいですね。

二宮: やはり世界で活躍している選手を見習いたい気持ちがあると?
青野: 考え方もすごくカッコイイし、オーラがありそうですよね。お会いしただけで自分のプラスになるかなと。

二宮: 愛媛県はさまざまな競技で一流選手が出ていますが、受け皿がないため、大学、社会人になると、どうしても東京や京阪神に流出してしまう。そんな中、青野選手は松山大に進学して、地元を拠点にしています。これは新しいスタイルではないでしょうか。
田村: 令が高校生の時に「その先の進路をどうするのか」と聞いたら、「松山大学に進みたい」という返事が返ってきました。とてもうれしかったですね。いくらいい選手であっても、よそへ行ってしまうと、後が続かず途絶えてしまうことがよくありますから。

二宮: 高校生で世界チャンピオンになったわけですから、おそらく、いろいろな大学から声がかかったはずです。その中で地元を選んだのは、アクロス重信の存在も大きかったのでしょうか。
青野: そのとおりです。練習環境がすごく整っていますからね。何より僕は愛媛がすごく好きなんです。海外や県外へ行っても、やっぱり愛媛がいいなと思います。だから出たくなかったんです。

 レゲエを聴いて演技をイメージ

二宮: 試合前に験担ぎはするほうですか?
青野: はい。遠征ではお守りを持っていきますし、初詣も石鎚神社(西日本最高峰(1,982m)の石鎚山にある)へ毎年行っています。

二宮: いつも同じ道を通って試合会場まで行ったり、いい滑りができたら、靴下を履き替えないといったことはありますか?
青野: そういうのは特にないですね。でも、いつも気合入る音楽を聴いてスキー場へ向かっています。僕は結構レゲエを聞くんですけど、EELMAN(イールマン)が歌っている「Simple」って曲は本当にシンプルでカッコいいんです。

二宮: 青野選手の丸坊主はレゲエとは似ても似つかない雰囲気ですよね(笑)。ちょっと意外な感じがしました。ただ、レゲエのリズムはスノーボードに合っているのではないですか? 音楽を聴きながら、レース前に頭のなかで滑りをシミュレーションすると?
青野: そうですね。イメージしたほうが滑りやすいですからね。ただ、いろんなことを考えすぎるとダメなので、大事なポイントを絞って頭に浮かべている感じです。

二宮: ハーフパイプの場合、他人とタイムを競うわけではないため、自分と向き合う競技ということもできます。ひたすら自分の技術を磨いていく点で、青野選手の性格があっていたのかもしれませんね。自分ではいかがですか?
青野: 確かに学校でサッカーや野球をすると、すごくおもしろいんですけど、なぜか部活に入ってまで本格的にやろうとは思わなかったんです。逆にスノーボードは最初、まったく滑れなかったのに、その難しさが楽しかった。野球でボールを投げたり、サッカーでボールを蹴ることは誰でもできます。でもスノーボードでは、滑るのも跳ぶのもすぐにはできない。小学生の自分からしてみれば、それ自体がすごいことなんです。できないことができるようになるのが楽しくてのめりこんでいった感じがします。

二宮: 早い時期から自分の特技はスノーボードで、いずれ日本一、世界一になるんだと考えていたのですか?
青野: 最初は滑れるだけでいいかなって思っていました。自分の中で完全に遊びで……。ただ、楽しくてうまくなりたいから、毎日通っていただけでしたね。

二宮: 遊びの延長という発想は大切です。元々、スポーツの語源は“遊び”から来ていますからね。愛媛県出身の俳人・正岡子規さんは、ボールゲームを“球技”ではなく“球戯”と訳しました。これはスポーツの本質を鋭くとらえた訳だと思っています。青野選手の場合は球ではなく氷と戯れている印象がありますが、今でも滑るのは楽しいでしょう?
青野: 楽しいですね。本来、スノーボードはハーフパイプのようなつくられた場所ではなくて、自然の中で遊ぶスポーツ。僕ももっと遊んでスノーボードがうまくなりたいです。

二宮: ぜひ、バンクーバーではめいっぱい楽しんできてください。
青野: はい。中学生の頃からオリンピックの金メダルを目指してスノーボードをしてきました。なんとか勝てるように気合を入れて頑張りたいと思います。

(おわり)
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<この対談はあいテレビで1月3日に放送された『青野令スノーボードにかける想い』でのインタビューを元に構成したものです>
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