和田一浩、小池正晃、英智、藤井淳志、平田良介、野本圭……ベテランから中堅、若手と強豪がひしめき、毎年のように激しいレギュラー争いが繰り広げられているのが中日の外野陣だ。その激戦地に果敢に挑もうとしているルーキーがいる。昨秋のドラフト4位で指名された松井佑介だ。落合博満監督も「(新人の中で)一番試合に出られる可能性があるのは外野手」と明言しており、可能性は決して小さくはない。開幕一軍入りを目指し、日々トレーニングに励む松井に今の心境を語ってもらった。
―― ドラフトで指名された瞬間の気持ちは?
松井: 実はビックリしたんです。というのも、他の球団からはいろいろと話がありましたが、ドラゴンズさんから直接「指名しますよ」という話はいただいていなかったんです。あのタイミングで呼ばれるとは思っていなくて、この後どこかに指名されたらいいなと。少し気が抜けていたところでもあったので、名前を呼ばれて「あっ!?」みたいな(笑)。

―― 4位という順位については?
松井: 指名されれば、順位は関係ないと思っていました。他球団の指名選手を見ても、ピッチャーがすごく多くて、外野手が少ない。その中で4位に指名してもらえたわけですから、すごく光栄に思っています。

―― 中日という球団へのイメージは?
松井: 落合監督さんらしい守備から流れをつくり、1点を守りぬく野球をするチーム。今の近代野球にすごく合っているなと思います。

―― プロでの課題は?
松井: バッティングですね。スカウトの方にも「もっとバッティングはよくなる。基本的なところから直していけば、もっと伸びるよ」と言われました。もう一度、土台をつくるところからやっていきたいと思っています。

―― 首脳陣へのアピールどころは?
松井: 全てにおいてレベルアップしないと、そう簡単にはレギュラーはとれないと覚悟しています。その中でも、肩と足には自信があるので、守備の面から期待に応えられるように頑張りたいなと思っています。バッティングの面でももっとレベルアップして、いずれは三拍子そろった選手になりたいなと思っています。もちろん、すぐにでもレギュラーをとりたいという気持ちを持ってやっていますが、下積みもしっかりしたいですね。

「プロでの課題はバッティング」という松井だが、高校、大学と4番としてチームの大黒柱を担ってきた。パワーのみならず、50メートル6秒ジャストと足にも自信がある。果たしてプロではどんなバッターを目指すのか。

―― 理想のバッティングは?
松井: 僕はどちらかというとアベレージにこだわっています。ホームランは狙って打つものではない。ヒットの延長上がホームランという考えです。プロでもアベレージにはこだわりたいなと思っています。

―― 自分の持ち味は?
松井: 最近は、高めの球を意識しています。僕としては高めの真っすぐには振り遅れたくないんです。よく2ストライクに追い込まれた場面で、高めのウエストボールで振らして三振ってことがありますよね。つまり、高めの真っすぐって、ピッチャーの中で最も自信たっぷりに思いっきり投げられるボールなんですよ。ピッチャー心理としてはそのボールを打たれたくないでしょうし、だからこそ僕としてはそのボールを打ちたい。大学4年の最後の秋季リーグでも高めの真っすぐを何本かホームランにしているんです。

―― 重要視していることは?
松井: 「無の力」です。自分がームランを打った時のビデオで観手いる時に感じたことなんです。僕って、結構力んで凡退することが多いんです。でも、ホームランを打った時って変な力が入っていない時なんですよね。力まない時こそ、スムーズにバットに力が伝わるのかなと思ったんです。それで「あ、これは“無の力”なのかもしれない」と。

―― ファンにはどんなところを見てもらいたい?
松井: 三拍子そろった選手になりたいというのがあるので、自分の全てを見てもらって、ファンの皆さんには早く認めてもらいたいですね。自分が打席に立った時に、スタンドが盛り上がってくれたら、それ以上に嬉しいことはありません。一日でも長く一軍でやりたいので、一軍定着を最大の目標としてそれに向かって頑張っていこうと思っています。

 投手経験が貴重な財産に

 高校時代、同じ大阪には辻内崇伸(巨人)、中日で同じチームメイトとなった平田ら“ナニワの四天王”がいた。松井はその四天王に次ぐ男として“第5の男”。それでも2年春から投手に転向し、MAX143キロのストレートとキレのあるスライダーを武器に3年夏には府大会決勝まで進出した。ひょんなことから投手を経験した高校時代。これが今の松井の財産となっている。

―― プロへの意識はいつから?
松井: 意識し始めたのは高校3年からですね。当時、プロからも少し話もいただいていたんです。志望届けを出したらもしかしたらいけるかなと。でも、今の自分ではプロに行っても成功するような器じゃないと思ったので、大学進学を選びました。

―― プロでは通用しないと思った最大の理由は?
松井: 当時、“四天王”と呼ばれていた4人の選手(大阪桐蔭の辻内と平田、履正社の岡田貴弘<現オリックス>、近大付の鶴直人<現阪神>)の存在が大きかったですね。彼らと比べて、まだ自分のレベルは足りていないなと。その4人を見て、プロに行く選手というのはこういう選手なのかと感じていたので、大学4年間でもう一度、一からやろうと決めました。

―― その四天王の一人、平田選手が4年をかけてまだレギュラーになりきれていない。プロの厳しさを感じる?
松井: そうですね。プロ野球は国内で最高峰のレベルなので、僕自身もそう簡単には出られないとは思っています。でも、やっと彼と同じ舞台に立つことができる。ここからが本当の勝負だなと思っています。

―― 最大の武器は?
松井: 肩の強さです。でも、強いだけではなく、伸びのあるきれいな球筋でコースにきちんと投げられるということが大事です。僕自身、コントロールを強く意識して投げています。そのためには指先の感覚が重要なんです。これは高校時代にピッチャーをやらせてもらったことが生きていますね。

―― 指先の感覚はピッチャーも野手も同じもの?
松井: 他の選手はどうかわかりませんが、僕自身はあまり違わないと思っています。ピッチャーをやっている時も、僕は力よりもどちらかというと指先でコントロールするタイプだったんです。それで大学3年時に内野手から外野手に転向した際、「ここで投げたらこういうワンバウンドがいくな」「この辺で離したらノーバウンドでいくな」っていう感覚を練習する中でつかむことができました。送球も投球同様に、リリースポイントで球の質や勢いがかわることがわかったんです。ですから、高校時代ピッチャーをやった経験が今に生きているんじゃないかなと思っています。

―― 他にピッチャーの経験が生きていることは?
松井: ピッチャーの時はランニングをメインにトレーニングしていたので、そこできっちりと下半身を強化することができました。それが今ではバッティングにもいかされていると思います。

―― 最も苦しかった時期は?
松井: 高校2年の冬のトレーニングですね。もともと内野をやっていたのですが、2年春の時、ピッチャーに故障者が多くて、自分で立候補してやり始めたんです。野手もやっていたので、冬のトレーニングには午前中にピッチャー陣のランニングメニューをこなして、午後には今度は野手陣のランニングメニューをやっていたんです。夜には投げ込みやったり、振り込みをやったり……。あまりにもしんどくて、どちらか一つにしたいなという気持ちでいましたね。でもあの時、他の人の2倍の練習をやりきったことで、達成感を味わうことができました。そして、その経験が今にいきているんじゃないかなと思っています。

 守備では英智、バッティングでは和田をを尊敬しているという松井。「間近で見るだけで勉強になる」と先輩たちとの対面を楽しみにしている。まずは同じスタートラインに立つことを目標とし、日々練習に励んでいる。

松井佑介(まつい・ゆうすけ)
1987年7月10日、大阪府出身。大商大堺高2年春より内野手から投手に転向。エース兼4番としてチームを牽引し、3年夏には府大会決勝進出を果たした。東京農業大へ進学し、1年春よりレギュラーを獲得。3年時には外野手に転向した。東都2部での通算成績は打率3割1分、104安打、20本塁打。183センチ、83キロ。右投右打。

(聞き手・斎藤寿子)


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