ここまでの成績は6勝12敗2分の最下位。なかなか思い通りにいかない戦いが続いています。最大の誤算は先発の軸に考えていた北岡紘行(元神戸)の故障です。開幕戦で勝利をあげ、4試合に先発して2勝1敗。安定した内容をみせていただけに、痛い離脱となりました。現在は復帰したものの、まだ長いイニングを任せられる状態ではなく、先発陣はコマ不足が続いています。ゴールデンウィーク中には3試合連続2ケタ失点。引き分けを挟んで7連敗と投手陣が総崩れになっていました。
 そこで抑えを任せていた藤井了を先発に回し、何とか五分の戦いができるようになってきています。こういう時こそ若手や経験のない投手にとって大きなチャンス。登板機会は与えているのですが、なかなかチームの救世主になるような存在は出てきていません。

 その中で北岡の代わりに先発を任せているのが、高卒1年目の最上奨吾(宮崎第一高)です。まだ線は細いものの球速は140キロ超。鍛えれば、まだ5、6キロは伸びるとみています。ストレートに加えて、スライダー、フォークも投げます。素質はいいものがありますから、2、3年経験を積めば、楽しみな右腕になるでしょう。

 まだ登板機会はありませんが、189センチと長身の有南貴司(和歌山大)もおもしろい投手です。50メートルを5秒台で走るなど、身体能力には高いものがあります。球威はまだまだですが、ひとつきっかけをつかめば化ける要素があります。彼らが出てくれば、チームも乗ってくるはずです。

 借金を抱えている大きな要因のひとつは首位の神戸戦での負け越しにあります。他の2チームとはほぼ互角の成績を残しているにもかかわらず、神戸戦は1勝6敗。相手は投打のバランスがとれているとはいえ、決して大きな戦力差があるとは思えません。あと1本が出るか、あと1球を抑えられるか。この差が結果的に勝ち負けの違いにつながっているように感じています。

「もう1回、1からやり直そう」
 22日の神戸戦で負けた後には、ミーティングでそんな話もしました。まだ前期は16試合残っています。後期の戦いもあります。巻き返しは十分可能です。勝ち負けにこだわることは当然ですが、選手たちは全員がNPBを目指しています。思い切って挑戦をしない限り、夢はひらけません。

 それでも過去、独立リーグでドラフト指名を受けた選手はほんの一握り。多くの選手は、ここでユニホームを脱ぐことになりいます。選手にとっては夢を叶える場所であると同時に、現役最後の場所でもあることを自覚してもらわなくてはなりません。だからこそ、「挑戦すること」「野球をやりきること」が大切になるのです。お客さんは、たとえうまくなくても一生懸命プレーする姿に対してお金を払って観に来ています。その人たちの応援に応えることが、このリーグの選手たちには求められています。

 今回、神戸から元ロッテの本格派右腕、末永仁志がトレードで入団することになりました。先発投手がゲームをつくってくれれば、野球はどうなるかわかりません。前期も半分が終わっただけ。紀州のこれからに、ぜひ期待していてください。 
 

石井毅(いけし・たけし)プロフィール>:紀州レンジャーズ監督
1961年7月10日、和歌山県出身。現在の本名は木村竹志。箕島高時代にはエースとして春夏連覇を達成。住友金属時代にも都市対抗野球で優勝し、橋戸賞(MVP)を獲得した。83年にドラフト3位で西武へ入団。故障もあってプロ生活は6年で終わったが、故郷に戻り、少年野球の指導に携わる。08年に独立リーグ参加を目指して紀州レンジャーズが立ち上がると、球団代表兼監督に就任。09年に創設された関西独立リーグの運営会社が撤退した際には、新会社の代表取締役を務めた。今シーズンより紀州の監督に復帰。現役時代の通算成績は85試合、8勝4敗4セーブ、防御率3.63。
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