辛口と言えばサッカージャーナリズムの世界ではこの人を措いてほかにはいない。日系ブラジル人のセルジオ越後さんだ。
 ズバリこう書く。<ボクは、岡田監督を代えるべきだと思っています。(中略)日本に必要なのは「競争」です>。そして続ける。<監督が代われば、新しい代表チームになるし、アピールするために確実に競争が生まれてきます。それが選手のレベルを引き上げます>
 著書の辛口批判はピッチの中だけにとどまらない。協会の人事やクラブ経営にも舌鋒鋭く切り込んでいく。ただし、彼がただの毒舌家ではないのは批判の中に建設的な代案が含まれていることで証明できる。
 たとえば登録制の問題。著書は「基本的に学校で登録したら、Jリーグの試合には出られない。これは学校に行ったら塾には行けないと言っているようなもの。全くナンセンス」と主張するが、全く同感だ。若年層はレベルの高い試合を数多く経験することで成長していく。強豪校に入ったからといって、ずっと補欠のままでは上達しないだろう。まさしく「良薬は口に苦し」である。
「セルジオ越後録」 ( セルジオ越後・講談社・880円)

 2冊目は「平井式アスリートアプローチ」( 平井伯昌著・ベースボール・マガジン社・1400円)。「優れた心は才能をも上回る」。平泳ぎで五輪連覇を達成した北島康介らを育てた名伯楽のコーチング術。北島の金メダル獲得への準備と戦略も明かされる。

 3冊目は「成功の法則92ヶ条」( 三木谷浩史著・幻冬舎・1600円)。「常に改善、常に前進」。以前、楽天本社に行った際、掲げてあった社訓に目が留った。6月の中間連結決算で過去最高益を達成した社長が伝授する成功へのビジネス哲学。

<1〜3冊目は2009年9月9日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>


記録を塗り替えた男を語る

 4冊目は「新・イチロー伝説」( ロバート・ホワイティング、芝山幹郎著・ベースボール・マガジン社新書・762円) 。 ベーブ・ルースやジョー・ディマジオなら野球ファンじゃなくても知っている。しかし、ジョージ・シスラーやウィリー・キーラーとなると、「それ、誰?」というのは通り相場だろう。
 メジャーリーグ通算二千本安打に続き、メジャーリーグ記録となる9年連続200安打を達成したイチロー。彼の活躍がなければ日本人がシスラーやキーラーを知ることはなかったはずだ。
 ちなみにシスラーはイチローに抜かれるまでシーズン257安打のメジャーリーグ記録を保持していた。1910年代から20年代にかけて活躍した好打者。一方のキーラーは1894年から1901年にかけて8年連続で200安打をマークしたが、彼もまたイチローに記録を塗り替えられてしまった。
 シスラーやキーラーの時代、メジャーリーグにはどんな風景が広がっていたのか。2人識者の縦横無尽の対話はベースボールへの知的好奇心をくすぐるばかりでなく、このスポーツをナショナル・パスタイム(国民的娯楽)に育て上げた米国という国の国柄をも浮き彫りにする。このオフシーズン、イチローにこそ読んでもらいたい一冊だ。

 5冊目は「夢をかなえるサッカーノート」( 中村俊輔著・文芸春秋・1429円)。 「日本代表、世界に通じるプレーヤーになる」。著書が17歳の時、ノートに書いた目標だ。試合の反省やプレーのイメージ図など、これまでに綴ったノートの全容を明かす。

 6冊目は「最弱ナイン」( 柳川悠二著・角川書店・1500円)。 最初の実戦は0対50の大敗、試合当日に寝坊で遅刻…こんな高校野球も日本にはある。広域通信制高野球部の?ワケあり?球児たちと指導者の戦いと成長の日々を描く。

<4〜6冊目は2009年10月7日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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