マンオブザマッチに選ばれた本田圭佑は試合後、ユニホーム姿のまま会見場に入った。
「(ゴールは)ボールがよかったのでしっかりと足元で止めて落ちついて決めるだけだった。ああいうのをここ最近外すシーンが多かったので、大事な点を決められてよかった」
 淡々とした口調ながらも、本田の表情は充実感に満ちていた。

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 本田の1トップ起用は、カメルーン相手にはまった。
 本大会前、最後の親善試合となったコートジボワール戦でも2列目に入り、本田の1トップが本格的にテストされたのは南アフリカに入ってから。6月10日にジンバブエとの練習試合でテストされたが、チームはノーゴールに終わっている。だが、本田は周囲に対してパスの欲しいタイミングなどを要求したり、連係を確認したりと精力的にコミュニケーションを取っていた。こういった細かな確認が、本番で活きることになる。
 本田は1トップながら下がってパスを引き出し、激しい寄せに対してもボールキープを続けた。カメルーンがたまらなくなってファウルを犯すというパターンが多かった。
 日本にチャンスらしいチャンスはなかなか訪れない。しかしながら前線でボールが収まることで、カメルーンの最終ラインにプレッシャーを与えていたのは事実だった。
 本田がキープして時間をつくることによって大久保嘉人、松井大輔のサイドが上がる。特に松井の右サイドからは何度もチャンスをつくり、本田の得点も松井のクロスによるものだ。それに大久保が飛び込んできたことで相手DFが釣られ、本田がフリーとなってゴールを決めることができたのだった。
 本田個人のゴールというよりも、連係が結実したゴールと言えた。松井、大久保と連係して攻撃する場面は少なかったかもしれないが、ずっと一発のチャンスを狙っていた。
 本田は言う。
「自分たちの強みは団結力だと思う。最後までゴールを割られないように守ったのがよかった。守備は狙いどおり」
 守備をある程度捨ててまでゴールに執着する。それが本田の描くストライカー像だと思っていた。しかし蓋を開けてみれば、本田は前線からよく守備をしていた。終了間際にもスライディングしてパスを出させないようにユニホームを汚したシーンが象徴的だった。チームのために、本田は走り続けたのだ。

 団結力と守備。
 本田には似合いそうにない言葉。しかし彼の口からは「団結」「守備」が真っ先に出たのだから面白い。
「本田はチーム内で浮いているのでは?」と強烈な個性ゆえに孤立している立場を想像するサッカーファンは多いが、現実はそうではない。その証拠に、ゴールが決まった後は控え選手の待つベンチに向かっていき、喜びを爆発させている。ゴールを決めたらベンチに来るようにと、中村憲剛から言われていたためだ。
 試合前日の13日には24歳の誕生日を迎え、チームメイトからも祝福されたという。
「いよいよ(W杯が)始まるっていう感じで、すごくリラックスしています。個人的に凄く楽しみ」
 初のW杯という舞台にも気負いも緊張もなく、メンタルコントロールもうまくいった様子だった。重圧に押しつぶされることなく結果を残したことで、大きな自信になったことだろう。いろいろな欧州のクラブから熱視線を受けていると報道されている。注目されると余計に力を発揮するタイプだけに、優勝候補オランダとの対戦でも期待が持てそうだ。
 
 カメルーン戦に勝利したことでチームの雰囲気も明るくなった。4月のセルビア戦から4連敗して「正直、チームの雰囲気が悪いときもあった」という。その嫌な流れを本田が断ち切ってくれた。
 ジョージのグラウンドでは本田の声がよく響く。
 クールではなく火傷しそうなほど熱いのが、本田の真の姿なのだろうか。本田がチームにつけた希望の火を、決して消してはいけない。

(このコラムは不定期で更新します)

二宮寿朗(にのみや・としお)
 1972年愛媛県生まれ。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。格闘技、ボクシング、ラグビー、サッカーなどを担当し、サッカーでは日本代表の試合を数多く取材。06年に退社し「スポーツグラフィック・ナンバー」編集部を経て独立。携帯サイト『二宮清純.com』にて「日本代表特捜レポート」を好評連載中。