新生日本代表の舵取り役が決まらない。
南アフリカW杯で国外開催初の決勝トーナメント進出を果たしたサッカー日本代表の後任監督選びが難航している。
このままでは代行監督で新生日本代表の初戦を迎えることになるのではないか――。そんな危機感が協会の内外で高まっている。
何とも締まらない話ではあるが、慌ててどこの馬の骨とも分からない者を連れてくるよりはマシだろう。
現在、協会が人選を行なっているリストに日本人の名前は見当たらない。
監督候補としてメディアをにぎわせてきたのは元ポルト監督のビクトール・バルデス、オリンピアコス監督のエルネスト・バルベルデと、ともにスペイン人だ。
監督人事を任されている原博実強化担当技術委員長はスペインサッカーの信奉者としても知られている。
協会はこの1月にスペイン協会とパートナー契約を結んだことに加え、南アW杯ではスペインが世界最先端のサッカーで優勝を果たした。
そうした文脈で考えれば、スペイン人監督は悪くない。ただ、誰でもいいというわけではないが……。
過去、外国人の日本代表監督は5例ある。オランダ人のハンス・オフト、ブラジル人のパウロ・ロベルト・ファルカン、フランス人のフィリップ・トルシエ、ブラジル人のジーコ、そしてボスニア人のイビチャ・オシム。
オフトからオシムまで外国人監督の起用に全て関わってきたのが現日本サッカー名誉会長の川淵三郎だ。
川淵は外国人監督起用に踏み切った背景を、次のように語った。
「カズやラモスのようなプロが代表に入ってきた段階で、もう代表監督もアマチュアというわけにはいかなくなった。
プロ契約している選手が、俺達は生活がかかっていると言えば監督は何も言い返せないでしょう。“そういう考えの選手はいらない”なんて果たしてカズやラモスに言えるだろうか。それはもう無理だと判断したんです。
しかし、いきなり日本人のプロ監督というのも無理がある。カズやラモスと対等に渡り合うには、やはり外国人監督の方がいいだろうと……」
こうした理由によって誕生した初の外国人監督がオフトである。
オフト・ジャパンには清雲英純という日本人コーチがいた。彼がオフトと選手の中和剤となったことはよく知られている。
この時の“成功体験”が「外国人監督には日本人コーチの存在が必要」という空気を生み、トルシエ・ジャパンにおいては山本昌邦がコーチとして起用された。
その一方でジーコは頑なに日本人コーチの起用を拒み、それが遠因となって選手たちとのコミュニケーションに失敗した。
再び川淵名誉会長の話。
「実はジーコには2回、日本人コーチを入れてくれと打診したんだけど、2回とも断られてしまった。特に2回目は相当強く言ったんだけど、それでも断ってきたね」
――ジーコはコーチは兄のエドゥーで十分と考えていたみたいですね。
「そうなんだ。ジーコの考えもわかるんだけど、エドゥーはあくまでもブラジル人だからね。細かいニュアンスは伝わりにくい。
すると、それが原因でチームに不満が溜まっていく。僕はそのことを心配したんだ。
だから、今でも日本人コーチについては後悔しているね。もっとうまく説得できなかったものかなってね」
こうした反省もあって、協会は外国人と代表監督の契約を結ぶにあたり、日本人コーチの起用を条件に入れているという。
それはいいのだが、こうした条件は人選におけるハードルを高くしていやしまいか。
というのも、中には自前のスタッフでやりたいという指揮官もいるからだ。
それでなくても代表戦におけるスタッフのベンチ入り人数は決まっている。たとえばW杯では監督、コーチ、ドクターなども含めて11名以内だ。その貴重なカードの一枚を、わざわざ日本人用にと考える外国人指揮官は少ないのではないか。
ポスト岡田として外国人が監督に就任した場合、協会は前川崎フロンターレ監督の関塚隆をコーチとして指名するのではないかと言われている。
代表監督が決まる前にコーチの名前が取り沙汰されるのも変な話だ。コーチの人事権は協会にあるのか監督にあるのか、それも気になる。
<この原稿は2010年9月3日付『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>
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