名実ともにビッグな男になりそうだ。
 身長193センチ、体重92キロと恵まれた体格を生かしたフォームは豪快そのもの。そこから投げ下ろすストレートはMAX152キロに達する。加えてチェンジアップやスライダーなどの変化球も駆使し、打者を牛耳っていく。高校時代からその素材はスカウトに注目されていたものの夢は叶わず、一時は米国に渡ってレンジャーズの1Aなどでプレーしていた。日本に戻り、アイランドリーグの門を叩いて今年が2年目。フォーム改造で従来の速球を取り戻し、天野浩一コーチが「秋のドラフトで指名される可能性がかなり高まってきた」と期待を寄せる右腕だ。まわり道をしてきた“大物”にインタビューを試みた。
――グローブを高々と上げるフォームがダイナミックでとても印象的ですね。いつ頃から?
上野: 今のフォームは今年の5月末からです。ベースは変えていませんが、グローブの使い方を天野(浩一)コーチに教えていただいて修正しました。それまではシーソーみたいに(グローブを持つ)前の肩が下から上に上がって、また下りるというムダな動きがあったんです。これではボールのスピードも上がらない。それなら前の左腕を最初から上げて、そこからまわして叩きつけるほうが、肩の上下動も少なくなるし、反動で右腕も振れるんじゃないかと。おかげで球威はだいぶ戻りました。ただ、モーションが大きい分、コントロールもばらつきやすい。その点が新たな課題ですね。

――走者を背負った時には、走られやすくなるデメリットもありますね。
上野: そうですね。5月にフォームを変えて、ある程度いいボールが投げられるようになると、セットポジションの時に、その課題が出てきました。案の定、走られることが増えてきたので、天野コーチからは「今度はクイックの練習だ」と言われて取り組んできました。まだ完璧ではありませんが、ひとつひとつ段階は踏んでいる実感はありますね。

――香川にやってきた頃は、剛速球右腕との触れ込みでしたが、実際にはなかなかスピードボールが投げられず、苦労しました。その原因は?
上野: 4年間、米国でプレーしていて日本に帰ってきましたからマウンドの違いに苦労しました。日本のマウンドは軟らかくて下半身を使わないと投げられない。当時の僕は上体に頼る投げ方をしていたので……。

――典型的な米国流の投げ方だったと?
上野: そうです。米国なら上半身にちょっと力を入れたらスピードが出る感じだったんですけどね。日本はしっかり下で粘ってボールに力を伝えないとスピードが出ない。たとえ140キロのボールを投げられたとしても、球威に欠けるんです。

――米国ではマイナーリーグや独立リーグで、さまざまな経験を積んだことと思います。今の自分にプラスになっていることは?
上野: まず環境が日本とは違いますよ。今も独立リーグで環境はそんなに恵まれていないといっても、3連戦か4連戦でしょう? 移動距離も米国のと比べたら全然短い。米国だと試合が終わったらバスに揺られて移動、また移動という生活がずっと続きますからね。疲れは溜まる上に、食事だってピザとかしか食べられない。その点では免疫というか、少々のことではへこたれない精神力は身についたと思っています。

――それに海外では言葉の問題もありますからね。
上野: もう1年目は、言葉が喋れないことで、ものすごくストレスがたまりました。でも、通訳もいませんから話さざるを得ない。そのうち英語には慣れてきて、なんとかコミュニケーションがとれるようになりました。

――ストレートの球威が戻ってきて、よりチェンジアップなどの変化球も効果的に使えるのでは?
上野: 僕の調子のバローメーターはチェンジアップなんです。チェンジアップが良いときは真っすぐも良い。チェンジアップは向こうで覚えたんですが、フォークがあるので去年はまったく投げていませんでした。でも上を目指すためには、緩急のあるピッチングが求められる。だからチェンジアップの他にカーブも覚えました。

――昨オフには、インディアンスから巨人入りした小林雅英投手と自主トレをしたとか。
上野: 米国でお世話になった方が雅さんとお知り合いで、その縁で一緒に練習する機会をいただきました。他のメニューはついていけたんですけど、ウェイトトレーニングだけは全くダメ。僕もオフにはウェイトトレーニングはみっちりやるタイプなので、プロの選手がどのくらいやるか興味があったんです。雅さんからも「とりあえず初日だから、重さもセット数も回数も全部オレと一緒にやろう。で、どういうことをやってるか体感して」と言われて。実際にやってみるとウェイトが重いし、回数も多い。結局、同じ数はこなせなくて、次の日は体がパンパンになりました(苦笑)。

――小林雅さんからは、何か言われました?
上野: 「あ〜、弱いねぇ。体大きいのに全然使えてないじゃない」って(笑)。トータルで約2週間くらいお世話になって、ちょっとずつ回数は増えていったんですが、最後まで全部のメニューはできませんでした。

――それはいい体験をしましたね。自分ではやっていたつもりでも、レベルの違いを思い知らされた……。
上野: えぇ、痛感しましたね。ウェイトに関しては、そこそこ自信があったんですけど、完全に打ち砕かれました。「あぁ、全然甘いな」と。雅さんは大きい筋肉だけじゃなくて、ピッチングに必要な細かい筋肉をたくさん動かしていました。そこは今まで気づかなかった点です。本当にいい勉強をさせてもらいました。

――その影響かわかりませんが、天野コーチが「今年は練習をものすごくやっている」と評価していますよ。
上野: はい。もう今年は年齢的にも最後のチャンスじゃないかって思っていますから。

――昨年、一緒にプレーした福田岳洋投手も横浜で1軍に昇格して、好投を続けています。
上野: 刺激になりますよね。たまに「調子、どうだ?」とかメールのやりとりもしています。福田さんは2つ上(27歳)ですが、あの年齢で入っても1軍で活躍できる。僕も後に続きたいです。

――憧れのピッチャーはいますか?
上野: 岩隈(久志)投手が好きです。背丈は同じくらいなのに、フォームが柔らかくてしなりがある。ここは僕に足りない部分で、春先は一度、フォームを真似したくらいです。あんな投げ方ができればいいなという気持ちは強いですね。

――シーズンも残り少なくなりました。ドラフト会議までも約2カ月です。どんなピッチングをみせたいですか?
上野: とにかく自分の持ち味である高さを生かしたピッチングや、ボールのスピードをみせたいです。残り1カ月、なるべくいい状態をキープできるように最善を尽くして、どんどんアピールしたいと思っています。

――もちろん、直近の目標はドラフトでの指名でしょうが、将来、どんな選手を目指しますか?
上野: 僕の場合、他の選手と比べると米国や日本の独立リーグを経験したり、球歴がすごく変わっています。だから、こういう選手でもNPBでできることを示したい。そのためにも、ただ入るだけでなく1軍で活躍できる選手になりたいですね。

上野啓輔 (うえの・けいすけ)プロフィール>
 1986年3月6日、千葉県出身。右投右打の投手。習志野高から上武大に進学するも中退して05年に渡米。独立リーグのサムライ・ベアーズに所属後、レンジャーズとマイナー契約を結ぶ。3年間プレーして09年より香川へ。長身から投げ込むストレートと緩急を使ったピッチングが持ち味。昨季は39試合に登板して4勝5敗2S、防御率3.92。今季は20試合、3勝0敗1S、防御率3.68(9月5日現在)。

(聞き手:石田洋之)