赤いメガネでモノを見れば赤く見える。青いメガネで見れば青く見える。透明なレンズはないものかと探していたら、この本に出くわした。
 <中国を称える本ではない。しかし、中国を貶める本でもない>という書き出しでスタートする本書は主観や情緒を極力排し、等身大の隣国を描き出している。

 「中国は経済成長率が八%を下回ると、経済格差の大きい内陸部の不満が暴動へとつながり、国家分裂の危機に陥る」
 よく聞く言説だ。それは事実なのか。事実だとすれば、その根拠はどこにあるのか。根も葉もないウワサだとすれば、なぜそれがもっともらしく聞こえるのか。著者は豊富な取材と客観的な考察で、それを明らかにする。
 中国が好きであろうが嫌いであろうが、日本はこの巨大国家の東側から引っ越すわけにはいかない。そうであれば「異形の大国」の現実から目をそらすことはできない。    
 著書は<厄介な隣人に食らいつき、その経済的発展を日本の国益や、自社の成長発展に何が何でもつなげていこうという態度>が重要だと説く。擁護論でも脅威論でもない戦略的互恵型中国論とでも言えようか。
「中国ゴールドラッシュを狙え」 ( 財部誠一著・新潮社・1400円)

 2冊目は「成功をつかむ24時間の使い方」( 小宮山悟著・ぴあ・1400円)。 「打てそうなボールでいかに打ち取るか。そこに徹底してこだわっている」。現役時代の著者は、そう語っていた。「投げる精密機械」と呼ばれた頭脳派の思考が明らかになる。

 3冊目は「空港の大問題がよくわかる」( 上村敏之、平井小百合著・光文社新書・820円)。 JALの経営破綻に、赤字を垂れ流す空港、世界に乗り遅れた航空行政…。日本の「空」は大丈夫か。私たちが抱く数々の疑問に答えながら、その解決策を提示している。

<1〜3冊目は2010年4月28日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>


「蛮勇はダメ」発言に問題提起

 4冊目は「サッカー戦術の仕組み」( フ湯浅健二著・池田書店・1500円) 。 「リスクを冒す勇気は持つが、蛮勇にはならないように」。サッカー日本代表監督・岡田武史の言葉だ。勇気と蛮勇は違う――。岡田はきっと、こう言いたかったに違いない。では、この2つ、どう違うのか。
岡田のこれまでの発言から推察すると、前者は「自分で責任のとれるリスク」、後者はその逆ということになる。異論はない。上司が部下に言うセリフとしては満点だ。
 しかし、と思う。岡田は南アW杯での目標をベスト4に置いている。国際サッカー連盟(FIFA)ランキング45位のチームが「坂の上の雲」を目指すには、それこそ革命的なことをやる必要がある。すなわち「蛮勇」だ。
 サッカーを究極的の「心理ゲーム」とみなす著者は岡田の発言をこう危惧する。<日本人の場合、蛮勇はダメ……と言われた瞬間に、「より強く」守りの心理に陥ってしまう傾向が強い>
 かつて元首相の細川護煕は閉塞状況の日本を打開する手立てとして「蛮勇の政治が求められる」と語った。サッカーにも同じことが言えるのではないか。
 W杯開幕まであと2週間。それまでにぜひ読んでおきたい一冊。

 5冊目は「投球革命」( 岩隈久志著
・ベースボール・マガジン社新書・762円)
。 著者はWBC連覇にも貢献した日本のエース。だが、楽天では野村前監督からボヤキの標的にされていた。辛辣な言葉を本人はどう受け止めていたのか。

 6冊目は「チャイナ・ビッグバン」( 葉千栄著・アーク出版・1500円)。 高北京五輪に続いて上海万博。日本の高度成長期のように発展を続ける中国。消費市場は熱狂し、インフラ投資は加速する。果たして中国は、この先、どこへ向かうのか。

<4〜6冊目は2010年5月26日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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