隣の芝は青く見える。
 イタリアのロベルト・カルデロリ法律簡素化相が、F1の総合優勝を逃がしたフェラーリの会長に辞任を求めたという。
 民間企業に閣僚が辞任を求めるのはお門違いだという批判も出ているようだが、日本ではありえない、許されない“内政干渉”も、イタリアでならば許される気もする。というのも、スポーツに関わる者への税制優遇など、日本では考えられないぐらい、イタリアの政治はスポーツを支えてきたからである。
 フェラーリが勝てなくて憤慨する大臣は、日本選手が勝った時だけ群がってくる政治家、勝つための策を講じようとしない政治家しか知らない日本人からすると、いささかまぶしく見えてしまうのだ。

 さて、中国の広州ではロンドン五輪を目指すU−21日本代表がアジア大会ベスト8進出を決めた。インドを相手の5−0というスコアは実力差からして驚くことではないものの、その中に“自分たちの成熟”がなければ生まれえぬゴールがあったことが嬉しい。
 象徴的だったのは、左サイド比嘉祐介からのアーリークロスをファーサイドに走りこんだ東慶悟がダイレクトで折り返し、ゴール前に走りこんだ山村和也がダイビングヘッドで決めた3点目である。クロスが入った時点で、ゲッターとなる山村はゴール前への侵入を開始していた。いわゆる連動性がなければありえないゴールだったといえる。

 圧倒的な強さで勝ち進んできた日本だが、これまでに奪ったゴールは、局面での個人能力差によるところが大きかった。出し手、受け手だけの関係で相手を蹂躪した、言ってみればいかにも代表という名の“寄せ集めチームらしい”ゴールだったといえる。だが、山村が奪ったゴールは、Jのクラブでもちょっと見られないほどの熟成を感じさせるものだった。大会4戦目にしてこのゴールは、チームの将来に大きな期待をもたせてくれた。
 ちなみに、日本の選手は自分たちの試合の前日に戦った韓国の圧倒的な強さに、かなりの刺激を受けていたという。

 なるほど、やっぱり隣の芝生は青く見えるものらしい。
 日本代表が大会直前のテストマッチを水戸ホーリーホックと行ったのと同じ日、韓国代表は沖縄でJFLのFC琉球と30分×3の変則テストマッチを行っていた。
 結果は2−1の辛勝だった。
 大会での経験は選手を大きく成長させる。沖縄で冴えない試合しかできなかった韓国も、中国に渡ってから伸びている可能性は十分にある。けれども、たった2週間前の彼らが、さして恐るべき存在でなかったことは日本選手に伝えておきたいと思う。

<この原稿は10年11月18日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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