「叙勲というと柄にもないイメージだったが、スポーツ界を代表しての受章といわれて気が楽になった。地域に根ざしたJリーグを認めていただいた」
 今年3月、日本サッカー協会の川淵三郎キャプテン(名誉会長)は旭日重光章受章を祝うパーティーでこう述べた。

 川淵たちが中心となってJリーグを立ち上げるまで、日本のスポーツは「学校」と「企業」が中心だった。翻ってJリーグは「地域」と「住民」を実体としていた。
 その第一歩としてJリーグは企業名を排除した。これに反発する勢力に対し、川淵はこう言い放った。
「物語は何でも理念があって続いていくわけでね。理念がないのなら単なる金儲けですよ。
 Jリーグに企業名を入れろという要求にしたって、じゃあ企業の名前を出したらお客さんが増えるんですか? 市民の賛同者が増えるんですか? と逆に問いたい。
 我々がJリーグを創設したのは、ヨーロッパや南米にあるような地域に根ざしたスポーツクラブを目指さない限り、プロスポーツの発展はないという認識からなんです」

 現在、全国には37のJクラブがある。浦和レッズ、アルビレックス新潟、ヴァンフォーレ甲府、徳島ヴォルティス、サガン鳥栖……といった具合に、全てのクラブが都市や地域名を名乗り、多くのサポーターによって支えられている。
 川淵はJリーグ創設時「老若男女、誰からも愛される“オラがまちのクラブ”をつくりたい」と語ったが、その希望は着実に実を結んでいる。

 Jリーグで幸せな国へ――。
 このコピーほどJリーグの理念を端的に示したものはあるまい。
 その後、日本サッカー協会会長になった川淵は「チェアマンにかわる愛称」を求めた。私は「キャプテンはいかがですか。日本のスポーツ界全体の舵取り役になってください」と進言した。
 これからも日本スポーツ丸の「船長」として大所、高所からの意見をお願いしたい。

<この原稿は2010年6月号『家の光』に掲載されたものです>

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