「ビーチバレーでは何もかもが難しくて、苦労しています。でも、逆にそれが楽しくもあるんです」
6人から2人という人数も違えば、屋内から風の影響を受ける屋外という環境も違う。さらにはジャンプの仕方まで異なるというインドアとビーチバレー。同じバレーボールとはいえ、ビーチを知れば知るほど、インドアとは似て非なる競技だということがわかる。
「自分はずっとバレーをやってきましたから正直、もう少しスムーズにできるようになると思っていたんです」と大山。ビーチバレーを始めた頃は、これほどまでにできないものかと、驚きの連続だったという。しかし、だからこそ、ビーチバレーに夢中になったのだろう。彼女は今、「壁を乗り越える」喜びを感じているのだ。
 大山の器用さがわかるエピソードがある。彼女がバレーボールを始めた小学1年の時のことだ。クラブに入団した初日、見よう見まねでサーブの練習をすると、わずか3球目でボールがネットを越えたのだ。
「普通はなかなか入らなくて、ネットまでもいかないものなんです。ところが、私がたった3球目で入っちゃったもんだから、周りで見ていた5年生や6年生が『えぇっ!?』って驚いていたのを今でもよく覚えています」
 そんな彼女がビーチバレーでは壁にぶち当たってばかりいるという。だが、その壁を乗り越えた時の喜びはひとしおであり、彼女はこれまでになかった新鮮さを感じている。

 ビーチに転向して、まず最初の壁は“砂”だった。柔らかいビーチの砂の上では体のバランスを取ることが難しい。そのため、走ることもジャンプすることもままならない。とにかくまずは“砂に順応した動きを身につけること”から始まるのだ。
「ジャンプする時の足の入り方も、インドアとビーチバレーとでは違うんです。インドアでは両足をハの字、つまりつま先を内側に入れて跳ぶんです。ところが、ビーチでそれをやってしまうと砂を外側に蹴り出してしまうので、ジャンプできないんです。逆に両方のかかとをつけるように足をVの字にすると、両足の間に砂が固まり、足が固定されてジャンプできるんですよ。最初の頃よりはできるようになりましたけど、まだまだ体に覚えさせるのに苦労しています」

 そしてもう一つ、インドアにはなかったものがある。それは“風”だ。インドアでも空調の流れによって、サーブなどに影響があることはあった。会場によって向きや強さなどが異なるため、ある程度の調整は必要だった。だが、ビーチでの風は空調のように一定ではない。刻々と向きも強さも変化する。選手たちはそれを読みながらプレーしているのだ。
「何よりも感覚が大事ですね。今は風がこれくらいの強さで吹いているから、ボールを押し込む力もこれくらい必要だ、とか。スパイクだけでなく、トスも風のことを考えながら上げなければいけないんです」
 インドアにはなかったいくつもの壁を前に、試行錯誤の日々が続いている。

 新鋭ペアがロンドンに挑む!

 昨年5月にビーチバレーへの転向を発表した後、大山は藤原みか子とペアを組み、同年8月、全日本女子選手権に挑んだ。大山は初の国内主要大会出場ながら見事、予選を突破。そして本戦での初戦では、菅山かおる・駒田順子ペアと対戦した。1セット目を先取したのは、大山・藤原ペア。21−20と大接戦の末、最後は大山のサーブが決まり、リードを奪った。ところが第2セット以降は、ほとんど手も足も出ず、逆転を許してしまった。その後、敗者復活戦に臨み、1回戦こそ勝ち上がったものの、2回戦でストレート負けを喫した。ビーチバレーはインドア以上に経験がモノをいうと言われるだけに、転向1年目の大山への評価は“善戦”という見方が大半を占めた。だが、大山には悔しさがこみあげていた。“経験不足”を言い訳にはしたくなかった。

大山が抱える課題は山積している。なかでも、暑さの中でもバテないスタミナと、ビーチバレーに必要な筋肉をつけることは、早急の課題としてあげられる。
―― ビーチバレーに必要な筋肉とは?
「これまでつけてきた大きな筋肉では砂の上では重くて動けなくなる。それよりもスピードに必要な筋肉をつけるためのトレーニングをしています。それと、トレーナーには上半身とお尻の筋肉が足りないと言われています。腕を大きく振って、バランスのとりにくい砂の上で踏ん張るには上半身とお尻の筋肉が重要なんです。ビーチバレーの理想の体型は逆三角形と言われているんです。上半身が大きく、お尻がキュッとしまっている。そんな体型を目指しています」

 ロンドン五輪を目指す大山にとって、今シーズンはビーチバレー転向後、初めて挑む勝負の年と言ってもいい。その大事なシーズンに大山がペアを依頼したのは菅山だった。その理由を彼女はこう語った。
「かおるさんは同じインドア出身ですから、自分が抱えている悩みもわかってもらえるんじゃないかと思ったことが一番大きかったですね。実際にペアを組んでみて、やっぱり通じ合うところが多いなと感じています。いろいろと相談にも乗ってくれますし、プレーでもいつもカバーしてくれるんです」

 その菅山との目標はもちろん、ロンドン五輪出場だ。しかし、その道のりは決して甘くはない。ロンドンへの出場権は24枠。うち16枠はワールドツアーの成績が上位のペアに与えられる。今大会からは世界ランクが国単位となり、1カ国が派遣できるのは最大2チームのため、日本はワールドツアーで上位8カ国に入らなければならない。しかし、日本最上位ペアでさえも世界の強豪ペアとの獲得ポイント数の差は大きく、現在では残念ながら可能性は低い。残るはアジア大陸予選での優勝、あるいは五輪直前に行なわれる世界最終予選で上位2チームに入るしかない。もちろん、日本が出場権を獲得した場合でも、国内で上位2チームに入らなければ、五輪への道は開かれることはない。

 前述したように、ビーチバレーは“経験のスポーツ”だと言われている。3年目の菅山、2年目の大山が食い込む隙はあるのか……。
「周りの人たちからは、いくらインドアではトップでやっていても、ビーチバレーを始めたばかりの私たちがロンドン五輪に行くのは無理だと言われています。でも、そんなのやってみないとわからない。もしかしたら、本当に無理なのかもしれない。でも、何が起こるかわからないのがスポーツですからね。それに、最初からロンドンは無理だからといって、2016年のリオを目指していたら上達のスピードもゆっくりになってしまう。ロンドンに行くって決めて本気でやったら、それだけ上達のスピードも速いと思うんです。私たちが“ビーチバレーは経験”という定義を覆したら、きっと面白くなりますよ!」
 茶目っ気たっぷりの笑顔を見せた大山。だが、その意気込みはホンモノだ。2011年、インドア出身の2人がビーチバレー界に新風を吹き込む。

(おわり)

大山未希(おおやま・みき)プロフィール>
1985年10月3日、東京都生まれ。グランディア所属。小学1年からバレーボールを始め、5年、6年時には全日本バレーボール小学生大会「ライオンカップ」で連覇を達成した。成徳学園中学では2年時に全国都道府県対抗中学大会「さわやか杯」で優勝。3年時には東京選抜に選出され「アクエリアス杯」で優勝した。さらに成徳学園高校(現・下北沢成徳高校)では1年時からレギュラーを獲得。3年間で通算6冠(春高バレー・インターハイ・国民体育大会)を達成した。2004年に東レ・アローズに入団し、2年目にはセッターに転向。昨季はリーグ3連覇に大きく貢献した。昨年5月に退団、ビーチバレーへの転向を発表した。2012年ロンドン五輪を目指し、今季より菅山かおる(WINDS)とペアを組む。179センチ。

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(斎藤寿子)
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