切手はメディアである――。それが郵便学者である著者の一貫した主張だ。原則として国家が切手を発行する以上、時の政権の主義主張が反映されるのは当然のことだ。逆に言えば国家意思を確認する上での貴重な情報源でもある。
 核兵器保有を宣言し、国際社会を挑発する北朝鮮が、かつて反核切手を発行していたことをご存知だろうか。1988年のソウル五輪に対抗して、平壌で開催した第13回世界青年学生祭典の宣伝のために発行したもので、廃棄される核ミサイルが描かれている。
 70年代から80年代にかけて、この国にも飛び火した「反核運動」の実態についてはよく覚えている。「反核」をうたうため、反対しづらいものがあったが、内実は米国を中心とする西側諸国の核は悪で、それに対抗する東側諸国の核は善という、極めて政治的なものであった。
 後に北朝鮮に亡命した「よど号」グループの実行犯、そして一部の支援者たちが、この運動に関わっていたことが明らかになる。
北朝鮮にはぜひ、もう一度、反核切手を作って欲しい。破棄されるミサイルの絵は、もちろんテポドンだ。
「事情ある国の切手ほど面白い」 ( 内藤陽介著・メディアファクトリー新書・740円)

 2冊目は「背番号1の打撃論」( 若松勉著・ベースボール・マガジン社新書・840円)。 著者は小さな体で日本人歴代1位の通算打率を残し、監督としてもヤクルトを日本一に導いた。「長打力のあるスイッチヒッターを育てたい」と語る。

 3冊目は「イチローの育て方」( 河村健一郎著・廣済堂あかつき・1300円)。 10年連続200本安打に挑むイチロー。完全無欠の好打者をプロで最初に指導したのが著者である。「才能を伸ばす」指導とは何か。そのメカニズムを明かす。

<上記3冊は2010年9月8日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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