苦しみながらも大学選手権2連覇を果たした帝京大学ラグビー部の2010年度のシーズンは、2月の日本選手権2回戦で東芝ブレイブルーパスに敗れて幕を閉じた。3月に始動した新チームで、森田はキャプテンという重責を担うこととなった。新たなスタートを切った森田と帝京大が目指す先は、平尾誠二らを擁した82〜84年度の同志社大学以来となる史上2校目の大学選手権3連覇だ。
 キャプテンとして

 帝京大ラグビー部のキャプテン選考は監督や卒業生の指名ではなく、新4年生同士での話し合いによって決まる。ミーティングを重ねる中で、まず学生コーチが決まる。それからキャプテンが決定する。
「ミーティングで1カ月から2カ月ずっと話し合って、最終的に推薦という形をとって、僕に決まりました」
 他に候補者がいて、競い合ったわけでもなく、自然に“森田が”という雰囲気になった。そのことからも、チーム内での森田への人望の厚さが窺える。

 今までチームを牽引してきた先輩の背中を見てきた森田にとって、目指すキャプテン像はまだ完成しきってはいない。まずは過去のキャプテンの良い部分を取り入れ、先輩に倣って、自分が戦う姿勢を示すことを考えている。
「特にこの2年間、FWの選手がキャプテンでした。野口(真寛)さんは、とにかく体を張って、背中で見せるという感じでしたね。吉田(光治郎)さんは、すごく頭のいい方でしたけど、泥臭い部分でチームをまとめ、ピンチをチャンスに変えるとか、そういう部分がありました。BKのキャプテンというのは、久しぶりみたいなんですけど、体を張って、先頭で引っ張るという部分は一番意識してやりたいです」

 現在、大学選手権を2連覇中の帝京大は、常勝軍団への礎を築きつつある。「僕たちが1年生で入ったときに、“4連覇する”っていうのが目標だったんですけど、残念ながら1年生のときは準優勝でした。そこから結果的には3連覇を狙うことになりました。(僕が)1年生のときは、何も見えませんでしたが、具体的に3連覇を狙うというところで、チームの意識は最初から高いと思います」と森田は新チームの印象を語る。

 3連覇――その障壁となるのは、ライバルチームだけではない。勝ち続けることの難しさ、王者としてのプレッシャー、気の緩みだって生まれる可能性も十分にある。その点は森田も理解している。キャプテンとして、最上級生として、しっかりと手綱を引き締めるつもりだ。
「気の緩みはなきにしもあらずですけど、去年、一昨年、春から地道にやっていった経験が秋につながって優勝できた。そのプロセスを僕らは経験しているので、“やることをやったから、勝ったんだ”と、“ここが大事なんだ”ということを選手個人にしっかりと理解させてやっていこうと思います。自分に対してもそうですけど、人に対しても厳しく関われるようにしたいですね」

 繋いだ縁

 森田は練習中から、岩出雅之監督と積極的にコミュニケーションをとっている。キャプテンはピッチ上の監督とも言えるポジション。監督の考えを深く理解することがチームをひとつにするには重要だ。ただ、森田はそれ以上に得るものがあると言う。
「キャプテンとして、監督の考えをしっかりと選手たちに伝えられるようにという部分もありますが、監督とお話をさせていただくことで、成長できる。監督とコミュニケーションをとることで、自分の成長につながると思っています」と指揮官への厚い信頼を口にする。

 帝京大に入学を決めたのも、自分自身の成長のためだ。そして、縁もあった。
「一番は高校のラグビー部の竹田(寛行)監督が、帝京大学の岩出監督を信頼されていたんです。帝京大学に行けば、成長できるということで勧めていただいたのが大きいですね」
 大学に入れば、それぞれの大学の長所も、短所も見えてくる。だが、何も分からない高校生にとっては、なかなか進学先のイメージを持つことは難しい。高校時代の恩師の勧めは大きかった。
「(帝京大は)竹田監督から言われていた以上に成長できる場だなと思います。いいアドバイスをしてもらって、本当に感謝しています」

 その竹田監督から指導を受けた御所工業高(現・御所実業高)に入学を決めたのもまた、縁だった。御所工業には、森田が通う中学校の先輩が多く在籍していた。
「先輩を通じて、練習や試合を見に行くことが多かったんです。そういうコミュニケーションが多くて、竹田監督ともお話をさせてもらったりもしました」
 決め手となったのも、人との出会いだった。
「当時、御所工業には、岸和田玲央(現・サントリーサンゴリアス)さんがいたんですよ。その方がすごく何と言うか、オーラを放たれていて“カッコいいなぁ、ああなりたいな”と思って、御所工業に決めましたね」

 中学3年生の森田は、当初、東海大仰星高校に憧れていたという。その理由は堅実な森田らしく冷静な分析によるものだった。
「ラグビーの強い学校に行きたかったんです。それでラグビーマガジンに付いている名鑑を見たんです。それで、ある高校は付属中学校の出身者がいっぱいいたんですよ。“これはなんか嫌だな”と思って。一方、東海大仰星は色んな出身校から来ているという点もあって、“いいなぁ”と思ったんですよ」

 最終的には縁あって御所工業を選ぶことになるのだが、その時々の縁がラグビーのパスのように繋がり、今の森田を前へと走らせている。
「竹田監督から御所工業に誘っていただいたから、今こうやって帝京大学に来たことにも繋がる。そういったところでも、人の縁に恵まれてここまで来たなと感じますね」

 憧れから目標へ

 森田は小学4年生の時に、近所の友達に誘われラグビーを始めた。最初はFWだったが、しばらくするとSOを任された。当時のアイドルは、神戸製鋼で活躍していたニュージーランド出身の日本代表SOアンドリュー・ミラーだ。
「キックが巧くて、よく走っていたイメージしか、今はないんです。ただ、当時は毎日ビデオで何回も同じ試合を観ていました。花園ラグビー場で試合があるときには、母と一緒に観に行きましたね。ミラー選手には、一緒に写真撮ってもらったり、サインや握手もしてもらいました。それですごく喜んでいましたね」

 現在のトップリーグを見ていても、自然と目がいくのはSOの選手である。ただ、その視線は憧れではなく、目標へと変わっている。
「特定の選手ではないんですが、今トップリーグには外国人選手のSOが多くて、それぞれのいいところを、学びながら見ているという感じですね」

 日本のラグビー界はトップリーグのチーム、そして代表のスコッドをみても、SOには外国出身の選手が幅をきかせている。
「キック力も持っていますし、個人技でも強さを感じますね。また、一番FWに近いポジションというところで、ディフェンス能力の高さも外国人選手の魅力だと思うんですね。そういう部分で、SOに外国人選手を置くのは、プラスの部分が多くあると思います」と森田は冷静に現状を分析する。その一方で、静かに対抗心も燃やしている。
「僕自身、そこにチャレンジしようと思っている以上、ディフェンスのところでしっかりと体を張ること。仕掛けの部分でも、外国人選手よりも、もっといいタイミングやスペースを狙って走ることでカバーすること。もちろん外国人の持っている良い部分も、僕自身持ちながら、さらに僕のいいところを出して、勝負していきたいですね」

 9月にはニュージーランドでワールドカップが開催される。日本代表も7大会連続出場を決めている。既に発表された日本代表スコッドの中に森田の名はない。フル代表の選出経験はない森田だが、大学2年生のときにU-20の日本代表として世界選手権に出場している。当然、選手として、日本代表への思いはある。
「やっぱりこれから先もラグビーをやっていこうと思っているので、大きな目標の1つだと思っています。今は、1歳上の山中選手も日本代表に入られていますし、僕もそこにチャレンジしたい気持ちはありますね」

 日本代表に入るには、まず今季、大学選手権3連覇を成し遂げること。そしてトップリーグに入って、存在をアピールすることだ。連覇に貢献した大学ラグビー界屈指の司令塔を必要とするチームは少なくないだろう。ただ、森田は結論を焦るつもりはない。
「色々とお話を聞いて、考えているところです。ただ、上のレベルで挑戦したいのでトップリーグのチームに行きたいと思っています」
 もちろん高校進学の時と同じように各チームのメンバーは見るつもりだ。その中で自分の持ち味を最も生かせるところを選択しようと考えている。堅実な森田らしい考え方である。

 森田にはラグビーに加えて、もう1つ特技がある。小学校から習っていた書道だ。初段というその腕前は、岩出監督の著書の題字を任されるほどの達筆である。「信じて根を張れ! 楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる」。綺麗に整ったその字は、森田の堅実な人柄を映し出す。

 着実に成長の階段を上っている森田の未来に何が待っているのか。それはまだ誰にも分からない。
 ただ、森田自身は悲観も楽観もしていない。その視線の先は真っすぐ前を見つめている。

(おわり)

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森田佳寿(もりた・よしかず)プロフィール>
1989年5月14日、奈良県生まれ。ポジションはSO、CTB。小学4年からラグビーを始め、郡山東中、御所工業高(現・御所実業高)を経て、2007年に帝京大学入学。1年からベンチ入りし、2年でレギュラーに定着すると、帝京大学の大学選手権初優勝に貢献。この年のU-20代表にも選出され世界選手権に出場する。2010年度もチームの主力として活躍し、帝京大は選手権連覇を果たした。今季から主将を務める。鋭い突破力とタックルが武器。身長172センチ、体重83キロ。

(杉浦泰介)
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