デビュー戦の内容は早大の同級生・斎藤佑樹(北海道日本ハム)を上回っていた。
 去る4月17日、地元での巨人戦で広島のドラフト1位ルーキー福井優也がプロ初登板を初勝利で飾った。同じ日、斎藤もプロ初勝利を挙げた。斎藤が5回4失点だったのに対し、福井は7回2失点。7三振を奪う力投だった。

 この力投には巨人・原辰徳監督も脱帽だった。
「粘り強く放られたというか、放らせてしまったというかね。球種もあるし気持ちも強そうだし、非常にいい投手が入ってきたと思います。対策ということをこれから考えていかないといけない」
 140キロ台後半のストレート、切れのいいスライダーをピッチングの軸に、カーブ、フォークと多彩な変化球を投げ分ける。時折、ボールが浮き、そこを痛打されることがあるが、この日は冷静だった。

 福井は岡山県英田郡西粟倉村の出身である。プロ野球選手で村の出身者はそう多くはないはずだ。
 ところで西粟倉村といえば、偉大なアスリートを1人生んでいる。2010年のバンクーバー・パラリンピックのクロスカントリーで、クラシカル10キロとスプリント1キロの2種目で金メダルを獲得した新田佳浩だ。パラリンピックのスキー距離種目では、日本人初の金メダルだった。
「小さい頃は新田選手と一緒に山でスキーの練習をしていました」
 新田の7学年下にあたる福井はそう語っていた。
 岡山県といえば温暖なイメージがあるが、それは瀬戸内海に面した県南で、県北の中国山地沿いは積雪地帯である。
 新田がそうであったように、福井も早くからスキーに取り組んだ。
「小学校の頃は県大会で優勝して、中学校の頃は全中(全国中学校体育大会)に出たことがある」というくらいだから、相当の腕前だったのだろう。

「スキーをやっている選手は内転筋が発達しているから野球でも成功する」
 かつて、そう語ったのは、現役時代「怪童」と呼ばれ、指導者になってからは多くの強打者を育てた中西太だ。中西の頭にあるのは、ヤクルト時代の教え子・若松勉だ。北海道留萌市出身の若松は中学時代、スキーのクロスカントリー選手として鳴らし、「北海道では負けなしで、野球とスキーのどちらを選ぶか迷った」という。

 話を福井に戻そう。身長178センチとピッチャーとしてはさほど大柄ではないが、クロスカントリーで鍛えた下半身は強靭でスタミナもある。性格もプロ向きで、昨年の冬に会った時には「背番号(11)くらいは勝ちたい」と語っていた。
 まだシーズンは始まったばかりだが、20日現在、カープは5勝2敗1分けでセ・リーグの首位。最下位候補と見られていただけに下剋上の予感が漂う。それこそ福井が11勝くらいしようものなら、14年ぶりのAクラスも見えてくる。

 そういえば、こちらもユウちゃん。「持っている」のは斎藤だけではない。

<この原稿は2011年5月8・15日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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