イタリア・セリエが再び八百長問題で揺れている。6月1日、元同国代表のジュゼッペ・シニョーリ氏ら16人が八百長に関わった疑いで捜査当局に、逮捕されたのだ。元スター選手の逮捕とあり、国内では衝撃が広がっている。さらに15日、イタリアサッカー協会はユベントスの元GMルチアーノ・モッジ氏ら3名を同国のサッカー界から永久追放処分することを決めた。モッジ氏はイタリアサッカー界史上最大最悪のスキャンダルと言われた06年の“カルチョ・スキャンダル”の主犯格とされた人物である。今回は5年前の八百長騒動を、当時の原稿で振り返りたい。

<この原稿は2006年12月号『FUSO』に掲載されたものです>

 先頃、UEFA(欧州サッカー連盟)は、5月に発覚したセリエA八百長事件に関与したACミランの今季の欧州チャンピオンズリーグ(CL)出場を認めると発表した。ミランは八百長事件の第1審で勝ち点を大幅に剥奪され、CL出場が取り消されていたが、7月25日の控訴審の結果、剥奪された勝ち点が戻りCL出場圏内の3位に浮上していた。
 地元のイタリアでは今回の八百長事件を「過去100年のイタリアサッカー界で最大最悪のスキャンダル」ととらえる向きがほとんどだ。控訴審の段階で判定の甘さを問う声が続出したが、今回の決定でも不満の声が噴出するのは間違いない。わずか1試合とはいえ、過去に例を見ない八百長事件に関わったクラブが、事件が発覚したその年にCL出場権を獲得してしまったのだ。こんなことがあっていいのだろうか。

 さて、今回の八百長事件を振り返りたい。主犯格はユベントスの元GMルチアーノ・モッジ氏。検察当局が2004年から2005年にかけてモッジ氏の携帯電話を盗聴したことで、事件は白日の下にさらされた。当局の調べによると、モッジ氏はイタリアサッカー協会の幹部と癒着し、数多くの審判を抱き込み、ユベントスに有利な判定が行われるシステムを確立していた。
 モッジ氏は、審判の割り振りを行う審判指名責任者のピエルルイジ・バイレット氏らと共謀し、20試合以上に及ぶセリエAの公式戦(2004-2005シーズン)の結果を操っていた。自軍の試合のみならず、ライバルチームに不利な結果をもたらすために他の試合をも対象とした。04年11月の試合では、選んだ審判員がユベントスに有利な判定を下さなかったとして、試合後に更衣室に監禁したとも伝えられている。
 モッジ氏の通話記録からは、移籍に関しての不正も発覚した。インテル(イタリア)に所属していたイタリア代表DFファビオ・カンナバーロやアヤックス(オランダ)所属だったスウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチに対して、ユベントスへの移籍が進むように事前交渉を行っていたのだ。特にイブラヒモビッチに関しては「試合でのプレーを拒否しろ。練習にも出るな」などと露骨な指示を出していたことが明らかとなった。

 あくまでもユベントスが主犯ではあるが、ミラン、フィオレンティーナ、ラツィオの上層部もモッジ氏がつくりあげた八百長のシステムに加わり、勝敗の不正操作に関わったとされる。事件を重く見た検察官は、第1審で4チームに対して非常に厳しい内容の論告求刑を行った。
 特にユベントスに対してはセリエAからの除名、過去2シーズンのスクデット剥奪、セリエC以下のリーグに降格、加えて勝ち点6マイナスでのスタートと厳しい処分を求めた。
 だが、実際に下された判決は過去2シーズンのスクデット剥奪、勝ち点マイナス30スタート、クラブ創設以来初となるセリエB降格と甘い内容。中でも最大の疑問はセリエA除名がなくなり、セリエC以下だったはずの降格がセリエBで落ち着いたことだ。ミランも勝ち点マイナス15スタートという“足枷”がついたものの、セリエAに残留した。
 4チームともに第1審の処分を不服として行われた控訴審では、チーム側の主張が認められてペナルティはさらに緩くなってしまった。第1審でセリエB降格という判決が下されていたフィオレンティーナとラツィオの2クラブは、セリエA残留が決定。さすがにユベントスのセリエB降格は取り消されなかったものの、勝ち点マイナスのペナルティは30から17へと大幅に後退し、1年でのセリエA復帰は決して手の届かない目標ではなくなった。
 控訴審の判決を受けて、ミランのガッリアーニ副会長は「(リーグ戦の)勝ち点マイナススタートは心配していない。われわれにとってはCL参加のチャンスを得ることが重要だった。(CLの予備選のために)選手たちにはバカンスを早々に切り上げるように連絡しなければいけない」と喜びともとれるコメントを残した。
 既にセリエA残留でリーグ戦の放映権料は確保している。CLで得られる莫大な放映権料を考えると、ミランの経営面の損失は差程ではない。当然だが、検察側は処分が甘いと一歩も引かない構えを見せている。

 1980年に大規模な賭博事件が起こった際には、10人以上の選手が逮捕され、ミランとラツィオがセリエBに降格。選手2人と当時のミラン会長が永久追放されるなど、厳しい処罰が下った。6月にW杯が行われたドイツでは、05年初頭に旧共産圏のマフィアが黒幕の八百長事件が発覚。主犯格となったロベルト・ホイツァー元審判員は05年11月に禁固2年6ヶ月の有罪判決を受けた。状況が違うために同じ土俵で比べることは難しいが、確かに今回の八百長事件が甘い処罰に終始した印象はぬぐえない。
 その理由は伝えられるように、W杯ドイツ大会でイタリアを優勝に導いたセリエA選手の奮闘が考慮されたからだ。ドイツ大会では、ユベントス5名、ミラン2名が決勝のピッチに立ち、優勝に貢献した。主将のカンナバーロは「イタリアサッカーの汚れていない部分を見せたかった」と語った。実際に、控訴審で下された判決には恩赦の要素が含まれていた。

 ペナルティが予想以上に軽かったとはいえ、ミラン以外の3チームは大きな打撃をうけている。特にセリエB降格によってリーグ戦の放映権料収入が激減するユベントスは来季の収入難を見越して、主力選手を次々と手放している。カンナバーロとブラジル代表MFエメルソンは2人合わせて地元紙推定2000万ユーロ(約29億円)という破格の安さでレアル・マドリード(スペイン)に移籍。イタリア代表DFジャンルカ・ザンブロッタとフランス代表DFリリアン・テュラムも2人セットで1900万ユーロ(約27億5000万円)という格安の値段でバルセロナ(スペイン)に譲った。
 ディディエ・デシャン新監督は「もう流出はこれで終わり」と語っていたが、8月2日、クラブ側はフランス代表MFパトリック・ヴィエラもインテル(イタリア)に950万ユーロ(約13億7750万円)で放出した。さらにイブラヒモビッチも10日に約2480万ユーロ(約36億円)で、同じくインテルに移籍した。今後も予断を許さない状況だ。


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