10月11日まで開催されていた第66回国民体育大会「おいでませ! 山口国体」で、愛媛県は天皇杯(男女総合)の成績で25位に入り、昨年の千葉国体での38位から大幅に順位を上げた。愛媛県が20位台に順位を上げたのは02年の高知国体(26位)以来、9年ぶり。6年後となった「えひめ国体」に向け、各競技団体が普及、育成に取り組んできた成果が着実にあらわれている。
 好成績を牽引したのは、もともと愛媛が得意としていた競技だ。昨年はまさかの入賞ゼロと涙を飲んだ弓道では成年男子が遠的で地元・山口に敗れるも準優勝。近的でも3位に入った。また少年女子が遠的3位、少年男子が遠的8位、近的7位と、出場した3種別すべてで入賞した。これにより前回は0点だった得点は73点を稼いだ。

 ボートでも愛媛県勢は好調だった。注目の成年男子ダブルスカル、武田大作(ダイキ)・別府晃至(今治造船)組は優勝を逃した(2位)が、少年男子かじ付き4人スカルは金メダル。6種目で入賞し、愛媛県勢トップの128点を叩き出した。また、“お家芸”とも言えるなぎなたも少年女子が4位、成年女子が6位に入り、得点を積み上げた。

「高得点が計算できる団体競技で、ソフトボールが昨年の1種別(成年女子)から3種別(成年男女、少年女子)と出場が増えたのも大きかったですね。しかも、昨年は雨にたたられて全日程を消化できず、得点を分け合うかたちになってしまいました。今回は天候にも恵まれ、成年男子、成年女子がベスト8、少年女子がベスト4まで勝ち進みました。これで得点が昨年の3倍近くアップ(36点が94点)しましたね」
 愛媛県体育協会の山本巌常務理事(写真)は、そう笑顔をみせる。しかし、25位と大幅に順位を上げた理由はこれだけではない。

「昨年の千葉国体では入賞を逃し、0点に終わった競技が21もありました。しかし、今回は18競技に減った。これも順位を押し上げた要因です」
 昨年は入賞ゼロで0点に終わったライフル射撃、ボクシング、空手、卓球、バドミントン、セーリングが、この山口国体では得点を獲得。ボクシングでは成年ライトウェルター級で福森雄太(近大、松山星陵高出身)が優勝を収め、卓球では成年男子が団体戦で初の3位に入った。

 これらの競技には、今まで愛媛では馴染みの薄かったものも少なくない。たとえばセーリング。県連盟が主導となってジュニアの育成に力を入れ、そこから成長した選手たちが少年男子セーリングスピリッツ級で3位と結果を残した。またライフル射撃では5月に始めたばかりという伊予農高の篠浦玲子が少年女子ビームピストルで4位入賞を果たした。

 ライフル射撃の普及、育成を主導しているのは愛媛県体育協会の田切秀和(写真)だ。京都府出身の田切は国体には選手、監督として過去32回出場し、何度も上位入賞を収めている。全国のトップレベルを知る田切が妻の実家である愛媛に移り住んだのは一昨年のことだ。

「本でも読んで、のんびり暮らそうかと思っていたのですが、県のライフル協会から“ジュニアの指導者が必要”と依頼を受け、お手伝いすることになりました」
 愛媛県ライフル射撃協会に登録している会員はわずか30人程度。普及しようにも、まず指導できる人材が不足していた。田切という強力な援軍を得て、次に着手したのは育成、強化の拠点づくりだ。協会では以前より、スポーツ射撃教室を開催し、普及活動を行っていた。だが、学校の部活動などで競技を続ける環境がなければ、いくら普及を図っても国体レベルの選手を輩出することは難しい。

 ようやく念願のライフル射撃同好会が伊予農高に誕生したのは昨年12月だ。光線銃を持ちこみ、校内の空き教室を活用して練習場をつくった。
「顧問の先生が非常におもしろがってくれて、生徒をどんどん引っ張ってくれたのはありがたかったですね。最初はゲーム感覚でもいいんです。楽しむ中で競技のおもしろさに目覚めてくれればいいと思っていました」
 そんな中、初心者だった篠原が急成長を遂げた理由はどこにあるのか。
「彼女は非常に素直な性格です。まずは指導されたとおりにやってみて、分からないところがあれば、こちらに質問に来てくれる。また、部活動を通じて他の部員と切磋琢磨できたこともレベルアップにつながったのでしょう」

 射撃は見た目以上に体力を使う競技だ。まずライフル銃の重量は約5キロと決して軽くはない。呼吸や拍動がブレにつながるため、標的に合わせて撃つ際には30秒ほど息を止める。メンタルの強さ、集中力の高さのみならず、フィジカル面でのタフさも求められる。篠浦は射撃の練習時間外も、重りを入れたペットボトルを使って腕力を鍛えたり、ジョギングで下半身強化に励んだ。日頃の努力が実を結んだことは間違いない。

「篠浦はまだ1年生。これからが本当に楽しみです。でも、もっと強くするには、少なくともあと2校ほどライフル射撃に取り組む学校が必要です。競争がないと選手は伸びませんから」
 田切は次の目標をこう明かす。メジャー競技とは異なり、射撃のようなマイナースポーツではまず体験できる環境をひとつでも増やすこと。地道な活動は今後も続いていく。

 今回の国体で天皇杯を獲得したのは地元・山口県だった。総得点は2220.5。愛媛の2倍以上(939.5)だ。6年後の「えひめ国体」で47都道府県の頂点に立つには、さらなる競技力の向上が必要である。
「山口県の結果を見ていると、セーリング、山岳、馬術といったマイナー競技で高得点をあげています。水泳にしても競技人口の多い競泳よりも飛び込みで得点を稼いでいる。成年よりも少年に力を入れている点も特徴です。愛媛も参考にすべきところが多いと感じます」
 山口県の人口は144万人。愛媛県(142万人)と大きく変わらない。地方ゆえに成年になってもスポーツを続けられる拠点が少ないといった悩みを抱えている点も共通だ。各競技での普及、育成活動を継続するのは当然ながら、限られた条件の中で何に重点を置くのかといった戦略も大切になってきている。
 
 また好成績の裏で、バスケットボールやバレーボールといった団体種目では得点をあげられなかった。昨年は両競技とも入賞していただけに、これは誤算だった。スポーツの世界で100%勝てるチームをつくるのは不可能だが、コンスタントに結果を残せるよう絶えず底上げを図ることは欠かせない。

 山本常務理事は「25位に浮かれてはいけません。ここを最低ラインとして足場を固めないと」と気を引き締める。9年前の高知国体では天皇杯26位とランクアップしながら、その後は30位台、40位台に低迷した。25位以上に入った31年前の栃木国体をみても、翌年の滋賀国体では45位と順位を落としている。その二の舞を演じるようでは「えひめ国体」での天皇杯獲得はおぼつかない。

「“来年は10位台を”と威勢のいい目標を掲げたいところですが、まずは20位台でひとつでも順位をあげること。ここに全力を注ぎたいと考えています」
 来年の国体は岐阜県を舞台に開催される(冬季は愛知県との共催)。織田信長が天下布武の号令を発したその地で、愛媛も天下獲りへの基礎を固める。

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(石田洋之)
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