第66回国民体育大会「おいでませ! 山口国体」が10月1日から本格的に開幕する。愛媛県勢は37競技に550人が出場。昨年は38位と順位を落とした天皇杯(男女総合)の成績を30位台前半に押し上げることを目標に掲げている。先行して実施された水泳では三好悠介(八幡浜高)が少年男子Bの100メートル自由形と100メートルバタフライでいずれも3位入賞。愛媛県は昨年を上回る得点を叩きだし、好スタートを切った。
(写真:ボート・武田はダブルスカルで出場予定)
 2017年の「えひめ国体」はいよいよ6年後。地元開催での天皇杯制覇を目指す愛媛県にとって、各競技の育成、強化は喫緊の課題になっている。中でも高得点につながる団体競技で結果を残すことが重要だ。
「昨年は少年女子のみだったホッケーで成年女子も出場を決めました。バレーボールも少年男女が揃って出ますし、ソフトボールでは伊予銀行を中心とした成年女子に加えて、成年男子、少年女子も出場権を得ています。各競技の取り組みが順調に進んでいると言っていいでしょう」
 愛媛県体育協会の山本巌常務理事は、そう評価する。ハンドボールでは成年男子がブロック予選で香川に逆転勝ちし、6年ぶりの国体出場を決めた。単に国体に出るだけではなく、バスケットボールの成年男子では、メンバーの大半を占める愛媛教員クラブが8月の全日本教員選手権で優勝を収めるなど、本番で勝てるチームづくりができつつある。

「個人競技でもライフルなどのマイナースポーツで少年女子が出場権を得ています。これは伊予農高にライフル射撃同好会ができたことが大きい。競技の普及、育成には学校との連携が欠かせません」(山本常務)
 ライフル射撃では同校の篠浦玲子が全国大会で2位に入っており、早速、上位進出に期待がかかる。またウエイトリフティングでもインターハイ53キロ級で優勝した権田達也(新居浜工高)が国体との2冠を狙う。毎年、安定した戦績を収めている柔道やレスリングでも、インターハイ柔道男子66キロ級覇者の高市賢悟(新田高)、レスリンス120キロ級準優勝の津田大健(八幡浜工高)ら頂点をうかがう選手がいる。

 昨年に引き続き、世界で結果を残している愛媛出身のトップアスリートが参戦するのも心強い。成年男子やり投げでは村上幸史(スズキ浜松AC、今治明徳高出身)が出場。8月の世界陸上では2大会連続のメダルは逃したものの、日本選手権は12連覇中と国内では敵はいない。ボートでは成年男子で武田大作(ダイキ)が参戦する。今回はシングルスカルではなくダブルスカルにエントリー。別府晃至(今治造船)とペアを組み、上位を目指す。

 武田は9月に行われた全日本選手権シングルスカルで決勝のレース直前に腰を痛め、まさかの2着に沈んだ。
「朝、サングラスをかけずに練習をしていて、太陽がまぶしかったので首を左へ曲げた瞬間に腰がグキッとなったんです……。それでも何とかなるという感覚はあったのですが、ラストの1800メートルくらいから足がしびれて動かなくなってしまった」
 過去、同種目で12度の日本一を達成している第一人者も「競技生活初めて」というアクシデントには対処しきれなかった。ゴール手前の大失速で1着の選手に逆転を許す。それでも気力を振り絞って2着には入った。

「(ペアを組む)別府君とは何回か練習しました。腰の状態さえ良ければ優勝は充分狙える。この悔しさを晴らしたい」
 幸い腰の症状は軽く、国体に支障はなさそうだ。今季の武田はダブルスカルのペア探しに苦労し、五輪の出場権が得られる8月の世界選手権出場を逃した。この国体を再びロンドンへ加速するステップにしたい。
 
 なぎなたでは成年女子で世界女王が国体の舞台に立つ。39歳の池見敬子(松山東雲中学、高校教)だ。7月に兵庫で開催された第5回なぎなた世界選手権で12年ぶり2度目の栄冠に輝いた。前回の世界一は「無我夢中でまだまだ課題があった」と振り返るが、今回は「あれから10年積み重ねた経験を生かし、気持ちと体と技がバランスよく合わさって冷静に戦えた」と分析する。

 アラフォーにして世界のトップクラスを維持できる要因は飽くなきチャレンジ精神にある。昨年より本格的にラグビーを始め、日本代表候補の合宿にも参加した。1児の母で愛媛を拠点にするため、なかなか継続した練習ができない点が悩みだが、一回りも年齢が下の選手たちと楕円のボールを追いかける。
「なぎなたでは長年、高いレベルにいるので、知らず知らずのうちに謙虚さを見失いかけていた。ラグビーで若い選手に倒されてみじめな思いをし、スポーツ人としての原点を見直せた感じです」

 ラグビーに取り組むことで、なぎなたにも好影響があった。まずはフィジカル面でのレベルアップだ。ラグビーの体力測定で具体的な数値目標を提示され、それが刺激になった。日々のトレーニングに対する意識が変わり、30代後半の肉体にもかかわらず、数字は向上している。
「体の軸を意識することも学びましたね。タックルで手だけで倒しに行っても相手はビクともしない。肩からしっかり当たって、相手に体重を乗せることが大切です。ただ、体重を乗せるといっても単に寄りかかるのではいけない。両足で体を支えられるようにバランスをとることが重要なんです」

 今回の成年女子の県代表メンバーは25歳以下の若手2人とのチームになる。もちろん大将を務めるのは池見だ。
「国体で優勝したのは広島大会(96年)だから、もう15年前のことになるんですね。トーナメント形式で組み合わせの関係もあるので、どこまで勝てるかは分かりません。でも、若い選手が思い切って戦って、その勢いに乗って私が最後に勝つ試合をしたいと考えています」
 世界女王は静かに闘志を燃やしている。

 6年後の「えひめ国体」に向けて一番の課題となるのは成年女子の育成だ。女子のスポーツは男子と比べると、どうしても受け皿が少ない。多くの選手は大学、社会人と進むにつれ、愛媛を離れるか、競技を諦めるかといった選択を迫られる。
「ジュニアでは女子も愛媛は他県には決して劣っていない。でも、中学、高校と上がるにつれ、部活動の数が少ないという問題に直面しています。たとえばサッカーでは愛媛FCレディースという母体がある。核になるチームをいかにつくるか。この点は各競技団体と連携して早急に取り組まなくてはなりません」
 山本常務はこう指摘する。

 サッカーではなでしこジャパンのW杯優勝を契機に、新たにボールを蹴り始めた女子も多いと聞く。身近な選手たちが好成績を収めることは、その競技に興味を抱くひとつのきっかけとなる。2017年の国体成功へ山口に集う愛媛の選手たちに与えられた役割は決して小さくない。

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(石田洋之)
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