崖っぷちで踏みとどまった。
 10月22、23日と明治神宮武道場至誠館で開催された第59回全日本実業団弓道大会、第31回全日本実業団遠的大会に参加したダイキ弓道部は近的女子の部で2年連続11度目の団体優勝に輝いた。産業別団体戦(金融・商事・その他の部)では連覇を逃したものの3位。個人では橋本早苗が交歓射会で3位入賞し、遠的女子の部で5位に入った。屈辱の2年連続国体ブロック予選敗退から3カ月、今後の巻き返しへ部員たちを取材した。
(写真:応援に訪れたボート武田選手と記念撮影)
「本当は男女総合での優勝を狙っていました」
 主将の橋本は今回の結果にも決して満足はしていない。8月の国体四国ブロック予選。ダイキの3選手(橋本、原田喜美子、北風磨理)からなる成年女子の愛媛県代表は近的で2位、遠的で3位に終わり、総合3位(出場は上位2県)で国体出場を逃した。他の種別(成年男子、少年男女)はすべて1位通過。しかも山口での本番では成年男子が遠的で準優勝を収めるなど全種別で入賞の好成績だった。「成年女子も出ていれば、もっと競技の得点を稼げたのに……」。愛媛県の体育協会関係者からはそんな声が漏れていた。

「このままではいけない」
 危機感を持った部員たちは、予選敗退後、ミーティングを開くようになった。それぞれの部員が今、何を考え、何に悩んでいるのか。全員が胸襟を開いて話し、情報を共有したり、解決策を探ることでレベルアップにつなげよう――それが狙いだった。時には話がまとまらず、練習時間がミーティングだけで終了してしまうこともあったという。

 橋本は話し合いの中で、あることに気づいた。
「全員の話を聞いていて、“悩みすぎている”ことが分かりました。みんな射型も悪くないし、練習もできている。そこまで悩む必要がないのに自分を見失っているんです」
 たとえば入社3年目の小早川貴子は「ひとつ気になると全部がマイナス思考になってしまう」と悩みを明かす。今年の1月には全国遠的大会で準優勝を収めた原田も「練習の時はできるのに、試合になるとその技術が生かせない」と課題を口にする。
(写真:「結果が出ないといろいろ考えてしまうが、気持ちを早く切り替えることも大切」と話す橋本)

 そんな声に経験豊富な橋本はどう答えるのか。
「本番になって緊張しない人はいません。あれもこれもと欲張るのではなく、今の自分をしっかり見つめることが大事。“最低限、こことここだけはやる”という割りきりが必要ですね。
 そのためには練習での矢数も大切です。私が新人の頃は周りより1本でも多く弓を引くことを目標にしていました。調子が悪かったり、射型がしっくりこなくてもガムシャラに引いているうちに道が開けてくることもある。後輩たちには調子が悪い時こそ粘って練習してみることをアドバイスしたいですね。“これだけ練習したから大丈夫”という自信を持てば、もっとコンスタントに結果は出てくると思います」

 こうしたミーティングの効果を北風は「その場ではっきりした答えは出なくても、お互いの考えが具体的に分かって参考になることが多い」と話す。意見交換で各自が頭と気持ちを整理し、ダイキ弓道部は国体予選後、初の全国大会となる全日本実業団弓道大会に臨んだ。
(写真:「国体予選ではここぞという時に中てられなかった」と敗因を語る北風)

 初日は5選手が4射ずつ引く形式を2回繰り返す1次予選を順当に突破。翌日はトーナメント方式による2次予選を迎えた。1回戦こそシーケーエンジニアリングA(栃木)を40−34で勝利したが、2回戦は各選手の的中率が悪く、前年度優勝の安永A(三重)に21−37と大差をつけられてしまう。
「2次予選は各選手が2本ずつ引くため、1本の重みが増す。高得点でなくても最低限、的に中てなくてはいけませんでした」
 目標にしていた総合優勝への道が閉ざされ、橋本は悔しそうに試合を振り返った。
 
 国体予選敗退から続く悪い流れを払拭するには、残る女子の部での優勝しかない。ところが続いて行われた女子の部決勝(5選手が4射ずつ引く形式)でも最初は得点が伸びず、波に乗れない。他チームが次々と的に中てるなか、重苦しい雰囲気が漂った。ここで踏ん張ったのが原田だ。全中で20点を稼ぐと、4人目の北風も同じく全中で22点をマーク。最後は橋本も20点でまとめ、終わってみれば2位以下を20点以上も引き離す圧勝だった。
(写真:原田は「練習から試合のように1本1本大切に引くことが大事」と改めて感じた)

「総合の2次予選では2本連続で外したのが悔しかった。挽回できて良かったです」
 流れを変えた原田がそう語れば、北風は「(総合で負けた)気持ちをうまく切り替えられた。次につながるものがあったと思います」とようやく笑顔を見せた。

 そんな部員たちの様子を観客席から応援していたのが、日本ボート界の第一人者・武田大作だ。同じダイキ所属ながら合宿やレースで各地を転戦する武田は、これまで弓道部となかなか接点がなかった。今回は武田が軽量級ダブルスカルクルーの日本代表選考合宿に向けて上京していたため観戦が実現した。

「ボートと弓道は全く違う競技ですが、体の動きや姿勢を正しくしなくてはいけないところは共通だと感じました」
 自らの肉体と対話し、常に強化をはかりながら現役を続けるベテランの目に彼女たちの射はどう映ったのか。
「やはり安定した力を出すにはどの競技も下半身が重要。下から力を伝えて体幹の筋肉で上体を支えて引けば、矢もブレずに飛ぶのではないでしょうか」

 試合後は早速、部員たちの下へ行き、アドバイス。「インナーマッスルを鍛える」「弓を引く前に肩関節周りをストレッチでほぐす」といった内容はもちろん、具体的なトレーニング方法も伝授した。
「肩のストレッチは練習前のウォーミングアップでとりいれるようになりました。何より、(五輪に4回出場している)あの武田選手に教わったのだから良くなるという安心材料にもなっています」
 小早川は、こう“武田効果”を明かす。世界と戦う男の言葉は彼女たちのメンタルの部分にも好影響を与えたようだ。
(写真:「昨年より気持ちの部分も射型も良くなってきた」と手ごたえを口にする小早川)

「来年こそ、まずは国体出場を勝ち取らないといけない。まだまだ崖っぷちです」
 橋本たち部員が見据える最大の目標は来年の国体だ。愛媛県の代表選考は12月からスタートする。2年連続で予選の補欠にまわった山内は「安定した射型を手に入れるには心技体の充実が必要」と練習後にフィットネスクラブに通い、筋力トレーニングや有酸素運動などの体力強化を始めた。松山大学時代に国体を経験した北風も「弓を引く時に肩の線がずれているので矢がまっすぐいかない。ムダな力を抜いて、しっかり大きく弓が引けるよう、基本に戻って射型を直す」と技術面での進化を目指す。
(写真:山内は「来年こそレベルアップした姿を見せたい」と意気込む)

 どの選手からも「国体に出たい」「国体で結果を残したい」との言葉が異口同音に聞こえてくる。国体は3人1組での出場となるため、少なくとも部内の競争を勝ち抜かない限り、愛媛県代表にはなれない。「私たちは仲間であり、ライバル」――。部員のひとりはそう言い切った。2年分の悔しさを弓に込め、逆襲の2012年はもう始まっている。

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(石田洋之)
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