表紙の写真にまず度肝を抜かれた。群青の大海原、モリ1本で鯨に挑む褐色の肌をした漁夫。彼はいったい何者なのか。
 インドネシア東ヌサテンガラ州に属するレンバタ島のラマレラ村と言われても皆目、見当がつかない。地図で見るとチモール島の北西あたり。うまく飛行機などを乗り継いでも日本から最短で3日はかかる。
 ラマレラは鯨人が住む伝統捕鯨の村だ。カメラマンである著者は19年間にわたって村人たちと行動をともにし、シャッターを切り続けた。
 いくつかのカットが本書でも紹介されている。圧巻なのは、ひとりの漁夫が自らの背丈の3倍もあろうかと思われる長いモリを手に、海面に姿を現した鯨に高々と跳び上がり、それを突き刺すシーン。棒高跳の選手でも、ここまで高くは跳べないのではないか。この1枚は壮絶な合戦絵巻を想起させる。
 これだけ衝撃的なシーンをファインダーに収めることに成功しながら、しかし著者は満足しない。どうしたら鯨の心を撮ることができるのか。そこに腐心する。そして射とめた驚愕のワンショット。喜怒哀楽は人間の専有物ではない。 「鯨人」 ( 石川梵著著・集英社新書・780円)

 2冊目は「親子読書のすすめ」( 川本裕子著・日経BP社・1300円)。 著者は長男が1歳の頃から毎日、就寝前の親子読書を欠かさず実践してきた。その中から各月ごとにオススメの150冊を紹介。まさに親子読書のバイブルだ。

 3冊目は「偽りの二大政党」( 中西輝政・篠原文也著・PHP研究所・1500円)。 菅直人首相を篠原氏が「バルカン政治家」と呼べば、中西氏は「無節操な現実主義者」と喝破する。アカデミズムとジャーナリズムのガチンコトークは読みごたえ十分。

<上記3冊は2011年3月9日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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