1964年東京大会・金、68年メキシコ大会・銀、72年ミュンヘン大会・銀、76年モントリオール大会・金、84年ロス大会・銅。全日本女子バレーボールの五輪史はまぶしいばかりの栄光に彩られている。しかし、それ以降は低迷が続き、3年前の北京大会も1次リーグ突破がやっとだった。
 光の見えないトンネルをさまよっていた女子バレー。ここにきて、やっと復活の兆しが見え始めた。昨年の世界選手権で32年ぶりのメダル(銅)を獲得したのだ。チームの指揮をとったのが、この本の著者である。元全日本男子の名セッターだ。
 試合中は最先端のデジタルツール「iPad」を手放さない著者の話を聞いていて、不意に頭に浮かんだのが野村克也さん。作戦の立案や戦術の遂行にあたっては、ともにデータを駆使し、指示の根拠を明確にする。勝因や敗因を漠とした精神論に求めないところが、僭越ながら私好みだ。
 数字の列挙は時に非情に映るが、むしろ人間関係の公平性や透明性の確保に貢献すると著者は喝破する。要は数字を生かすも殺すも使い手次第なのだ。この指導者なら、かつてのお家芸を復活させてくれるかもしれない。 「精密力」 ( 眞鍋政義著・主婦の友新書・820円)

 2冊目は「わざ言語」( 生田久美子・北村勝朗編著・慶應義塾大学出版会・3500円)。 スポーツライティングにおいて選手の技や感覚を言語化するのは難しい作業だ。スポーツのみならず、伝統芸能や介護の現場での「わざ」を伝える「ことば」に着目。

 3冊目は「なぜ、「これ」は健康にいいのか?」( 小林弘幸著・サンマーク出版・1400円)。自律神経のコントロールこそがスポーツや仕事での好結果につながると著者は説く。まずはゆっくり深呼吸してみよう。心身のバランスを保つヒントがここにある。

<上記3冊は2011年6月1日付『日本経済新聞』夕刊に掲載されたものです>
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